7月23日(金)...
阿蘇カルデラの中には、
中央火口丘を挟んで
北と南に二つの盆地状の
火口原が広がっています。
北の火口原は阿蘇谷と呼ばれ、
南の火口原は南郷谷と呼ばれています。
南郷谷
「ママ、あれは?」
「展望所を作ってるみたい」
中岳
「...杵島岳に上ろうかな?」
「今から?雨は大丈夫かな」
「ママはここで待っててもいいよ。
クララと二人、
30分で上がって、
30分で下りて来るから」
「ううん、ゆっくり上る」
午後6時...
「クー!」
「ママはゆっくり来て!」
杵島岳はいつ見ても美しい...
たとえ雲に覆われて
見えなくてもかまわない。
今日の杵島岳はどんな姿なんだろう。
阿蘇谷に住む人間は、毎日、
杵島岳を仰ぐ習慣が身に付いています。
杵島岳
「クッ、クッ、クッ、...
ママ、最後まで上れるかな?」
「お~い!」
「まだ、あんなところ...。待っててあげよう」
「クーちゃん、ありがとう♪」
「クー」
私は、まるで子供のように
目を輝かせていました。
久しぶりの登山が楽しかったのです。
午後6時40分、
私たちは杵島岳の最高地点
1326mに立ちました。
最初は胸の真ん中の小さな点でした。
それが、歩くにつれ少しずつ
大きくなっていきました。
中岳
内側から外側へと、
静かに広がるように
その光は放たれました。
まるで、胸に掲げたろうそくの
灯火のように。
阿蘇谷
胸の光りが、呼吸に合わせて
揺らめきました。
励ましのように、
悲しみに寄り添うように、
そこから立ち上がれるように。
(クララ、強くなれ)
「アリスお姉さんだ。なんで私の中に?」
「私の中にもいるよ」