数年後

私はまた一人暮らしをしていました。


一人暮らしも

派遣のお仕事も慣れてきた頃、

優しい電話がかかってきました。



「オレも離婚した。

本当は、

オレがそばにいたいけど

それが叶わないのは分かってる。

さちにまた

イイ人が現れるまで

いつなんどきでも、さちを守れるように

身軽になったよ。

オレのこと、いつでも頼っていいんだよ。」



「私のために離婚したの?」


「違うよ。自分の為。

オレがそうしたいからしただけ。

気にするな。」





一番

気になってたコトを聞いてみた。



「なんで

私の携帯番号知ってるの?」



「さちのコトなら何でも知ってるよ。

じゃなきゃ、守れないでしょ。」



疑問は解明されませんでした。









またその数年後

私は今の旦那さんと再婚。


今まで

私の身に何か起こると

必ず連絡があったのに

この5年間は

何もありませんでした。




そして

数日前の電話。


携帯がなり、

見ると登録がない番号でした。


誰だろう?

と、

出るのを躊躇していたら

切れてしまいました。


直後

家の電話がなりました。



友人とは

携帯で連絡をとっているので

今の家の電話番号をしっているのは

親くらい。



「久しぶり。元気にしてるか?」



久しぶりの

優しい声を聞いて

ゾクッとしました。



この恐怖感

分かってもらえるでしょうか。。。



携帯電話は

私個人の物だけど

家の電話は

旦那さんとの家庭にあるもの。


しかも

電話番号で、

ある程度の住所も分かってしまいます。


たまたま

旦那さんがいない時間だったから良かったものの。。。


返事ができずにいる私に

優しい声は

話しかけます。



「今は、○○さん(←今の苗字)なんだよね。

今度は落ち着いたみたいだから、

オレも再婚したよ。」



そんなコトはもう

どうでもよかった。



「携帯と家の電話番号

なんで知ってるの?」


これが

私の第一声。



「姉ちゃんから聞いたよ。」



ほっとした気持ちと

姉への怒りが

同時に湧き上がりました。


今までの経緯を

全て知っていながら

勝手に番号を教えるなんて。


しかも

家の電話番号まで教えるなんて

あまりに酷すぎる。


もし旦那さんが

電話をとっていたら・・・


考えるだけでも

恐ろしかった。


いや、

家の電話番号を知っている以上、

今後ずっと

この不安は解消されることはありません。



私は

苛立ちを隠せませんでした。



今思えば

彼の電話はいつも

私が凹んでいるとき、辛い時、悲しい時・・・

そんなタイミングで

かかってきていました。


気持ちが重すぎるとか、

怖いとか、気持ち悪いとか思いながらも

私は

その電話に救われていたのかもしれません。


今回初めて

何もない

平穏な日々にかかってきた電話。


旦那さんとの静かな毎日を

壊されたくない。

そう思いました。


だから余計に

姉にも彼にも苛立ったんだと思います。



早く電話を切りたい私に

「まぁ、聞いてよ。」

彼はゆっくり

いつもの優しい声で話し始めました。

社会人になってすぐ

私は実家をでました。


私の気持ちを逆なでする

すべてのコトから

開放されたくて・・。



私は

いくつかの恋をして

転職をして

引越しをした。


平凡とは言い難いけど

平穏な数年を過ごしました。





最初の旦那さんと結婚して

半年ほど経ったある日。


家の電話が鳴りました。



「結婚おめでとう。今幸せか?」


彼の声を聞くのは

実家を出た時以来、

数年ぶりのコトでした。



私は戸惑いました。


その声は、いつも優しくて

あんなに恐い思いをしたのに

懐かしくもあって。


今の彼は

昔の優しいお兄ちゃんなのか

それとも・・・



「オレも結婚したんだよ。」



その言葉を聞いて

ほっとしました。


あの怖いくらいの愛情は

今は奥様に向けられている。


私にとって

今の彼は

昔の優しいお兄ちゃんだ。


全身の力が

すう~っとぬけた。


自分の身体が

強張っていたことに

その時気付きました。


何気ない世間話や

懐かしい昔話をして

最後に

優しいお兄ちゃんはこう言いました。





「なぁ、さち。

何かあったらオレを頼るんだぞ。

結婚したって何したって

さちを守るのはオレだから。」



意味が

分からなかった。




「結婚は、

彼女がしたいって言ったからしただけ。

さちの存在を知っても

付き合いたいって言うから付き合ったし、

結婚したいって言うから結婚した。

ただそれだけだよ。気にすんな。」




小学生の頃の初恋を

今でも忘れられない。


好きな人が

そんな風に言ったら

美談。。っと感じてしまうかもしれない。


まして

その想いが現在進行形だなんて

思いもしないだろう。





「結婚するならさ、

前の前の彼氏の、銀行員が良かったんじゃない?」



私の背筋に

あの日の悪寒が

よみがえった。


「久しぶり。元気か?」



そんな優しい声の電話が

いつもいつも

絶妙なタイミングでかかってくる。



高校を卒業し、

何の目標もないまま短大に進学した私。



泣きたい時も

愚痴を言いたい時も

私から

彼に連絡をすることはありませんでした。

が、

そんな時は必ず

優しい電話がかかってきました。




ある日

スクーターで事故に巻き込まれました。

幸い、

打撲と左足の軽い捻挫で済みました。



「久しぶり。何か困ったことはない?

オレがさちの足になるから

いつでも呼んで。」



私が話していないコトを

彼はよく知っていました。



情報源は姉だろう。

そう思っていました。



今も昔も

姉とは反りが合わないので

私は

母から、姉に言ってもらいました。


私のコトを

彼に話さないようにと。



しばらくして

母から返ってきた姉の言葉に

私は身の毛がよだちました。



彼とは

中学を卒業してから

一度も連絡をとっていない・・・



じゃあ何故

私の身に起きた

色んな出来事を知っているの?



背筋にぞっと

冷たいものが走りました。




当時はまだ

ストーカーという言葉がなく

自分自身も

被害を受けているという感覚が

全くありませんでした。


愛情深くて、私には重すぎる。


ただ

そんな風に思っていました。





家の電話が鳴り

母に居留守を頼んでも


「さちさん、家にいますよね。

さっき帰ってきたじゃないですか。」





仕方なく電話に出ると


「車の前輪、

空気減ってるから入れた方がいいよ。」



「昨日帰ってこなかったから心配したよ。

旅行に行ってたんだね。楽しかった?」



「今日来てた服すごく可愛いよ。オレ好み!」




彼は

私が利用する駅に

偶然いるコトが多くなりました。


家の近くで待っていたり、

バイト先の飲食店に

お客様として来たり。。。




いつも監視されてる気がして

すごく恐くて、嫌でした。


ストーカー行為は、

今では立派な犯罪ですが

当時はまだ、

ストーカーという言葉すらありませんでした。



彼からは

付き合って欲しいと詰め寄られることもなく

嫌がらせをされる訳でもなく、

お付き合いをしていた男性に、危害をくわえるようなことも

ありませんでした。



「さちは、オレが一生守る」

その言葉を

彼は実行しているだけでした。

彼は

いつも優しかった。


彼が

私の家に遊びにきたのは

あの日が最後。


彼の部屋は

実家の隣にある

お祖父ちゃん、お祖母ちゃんが住んでいた

木造の古い小さなおうち。

トイレ付きでお部屋は二つ。


親の目を気にせず

出入りが自由にできるので

友人らのたまり場になっていました。


いつも

鍵をかけていないので

本人がいなくても

誰かしらがいて

テレビを見てたり

音楽を聴いたりしていました。


私もその一人。


彼は

高校1年生になった私の

それなりの悩みや

それなりの愚痴を

いつも穏やかに聞いてくれました。


私が2年になると

彼は就職して社会人。


時間が合わなくなって

疎遠になり始めたのは

この頃からかな。


携帯もない時代。

連絡方法は、家の電話だけでした。

長電話をして

母親によく叱られました。


長電話の相手が

彼ではなく、

私の好きな人に代わった時

私は

彼の想いに

恐怖を感じるようになりました。


今まで

親や友達にも言えないようなコトまで

何でも相談してきました。


「好きな人と付き合うことになった」


彼の気持ちを知りながら

今まで散々甘えてきたから

この一言が

どうしても言えずにいました。


彼が社会人になってから

会う機会はほとんどなくなり

その上、

私から電話もしなくなって。。。


彼が

私の異変に気づかないわけがない。


それから毎日

電話がかかってくるようになりました。

母に居留守を頼み

彼の電話には出ませんでした。


すると彼は

私の家にきました。



「心配したんだぞ。

何があったの?話してごらん。

オレは、一生さちを守るって言ったでしょ。」



いつもと変わらない優しい彼。



でも

その優しい笑顔を

私はとてつもなく恐く感じました。



「彼が・・・できた。」


一瞬

彼のあごの辺りが

ピクッと動いたのが分かった。


「そうか。

どんな人なの?いくつ?

会いたいなぁ。」


いつもの優しい笑顔で

彼は

ゆっくりと、たくさんの質問をした。


「何かあったら

いつでもオレを頼るんだぞ。

さちを泣かせるような男だったら

オレは絶対に許さないからな。

言っただろ?

オレは一生さちを守るって。」




そう言って

いつかのように

私の頭をポンポンとした。




彼のその手は

わずかに震えているような気がした。


昨夜

滅多にならない

私の携帯がブルブル震えた。


登録のない

携帯番号からの着信。


誰だろう?


出るのを躊躇している間に

電話は切れました。


直後

家の電話が鳴り響く。


今住んでいる家の電話番号を知っているのは

親族くらい。


何かあったのかと

あわてて受話器をとりました。




「もしもし?」



「・・・久しぶり。元気にしてるか?」





5,6年ぶりに聞くその声は

いつも変わらず優しい。




彼は

姉の小中学校の同級生。


姉はとても社交的で

いつも姉の部屋からは

にぎやかな笑い声が聞こえていました。


彼も

その友達の中の一人。


隣の部屋で

一人静かに本を読む私を

なぜかいつも

気に掛けてくれました。


「こっちにおいでよ。」

何度も誘ってくれたけど

今も昔も

にぎやかなのが苦手な私。


それよりなにより

姉の視線が怖かった。


姉は

いつも自分が中心でいたい人。


自分の友達が

妹を気に掛けているのは

面白くない。




しばらくすると

彼は声をかけるのを諦め、

私の部屋にくるようになりました。



最初の頃は

お菓子とジュースを持ってきて

「食べな^^」

と言って

部屋を出て行きました。


それから

少しずつお話をするようになって

いつしか彼は

姉の友人としてではなく

私に会いにくるようになりました。



私が

中学3年生になった頃。

彼に告白されました。


彼が

私に会いにくるようになって2年。



彼は

高校2年生になっていました。



私には

好きな人がいました。

彼ではありません。


彼の好意に

気づかなかった訳ではないけど

出会った頃が幼すぎて

男女のそれとは思わずにいました。


私にとっては

いつも優しくしてくれる

お兄ちゃん的存在。


告白されても

彼を

男性として見ることができませんでした。




彼はいつも優しい。



「わかったよ。

オレの気持ちは一生変わらないから。

何かあったら

いつでもお兄ちゃんを頼るんだぞ。

さちのコトは、オレが死ぬまで守る。」



彼の気持ちに応えられない私は

ただただ泣いていました。


彼は

いつものように

私の頭をポンポンとして

笑ってくれていました。



泣きたいのは

彼の方なのに・・・






~つづく~