百合耶は男の子とおしゃれをする事に興味が無い訳ではなかったが、彼女の本当の趣味はちょっと変わっていたので、それを表に出す事もなく由香よりもっと親しくなった加納小夜子と亀田絵里と休み時間に世間話をするのが通常になっていった。

 昼休みの教室は仲のいい生徒たちが机を寄せ合ってそれぞれに食事をしている。弁当の匂いが教室中に漂いだす。夏休み前の蒸し暑い教室の中は空調があまり効いていないようだ。

 「はー、何か良い事ない?」 

 幼稚園児サイズのお弁当を食べて、小夜子が呟いた。

 加納小夜子はくりっとした愛くるしい瞳でぽっちゃりした頬を膨らましたり窄めたりして、絵里と百合耶に顔を向ける。

山田さんだって、結構その、個性的よっなどと慰めにもならない言葉を聞くのも幼い頃から慣れている。うはは、性格の方ももっと個性的なんですぅ、と返しながら二人は教室に入って行った。百合耶にとって期待と不安が入り混じった新しい高校生活が

始まろうとしていた。


 しかし百合耶が期待する程の運命の輪も回らず、親しい友人ができ、単調に勉強をする、そんな毎日が続いているだけだった。日を追うにつれ里見由香も男の子の話題とおしゃれについて語りあえる友人を見つけたようで、百合耶とは挨拶をする程度になっていた。

 ぶっと膨れた頬はピンク色で、少し色がついたリップグロスの光る唇が尖る。百合耶が見惚れる位に由香は可愛い顔をしている。

 「初めて見たときに思ったんだけど、里見さんは凄く可愛いよねー。むくれた顔も可愛いとは、羨ましい限りでございます。」

 おどけて由香に頭を下げる。

 「やーもー、何を言い出すのよ。恥ずかしいじゃないー。」

激しく嬉しいのだろう。否定をしない。百合耶は可愛い顔立ちの由香を羨ましいとは思うが、自分の十人並み以下の不細工な顔が嫌いではない。

山田百合耶(ゆりや)いう名前が恥ずかしいほど似合っていない思いながら十五年生きてきた。そんな彼女も晴れて都立の高校生になった。さほど有名ではない都内の進学校だが、百合耶は一応頑張って勉強した。合格したときは両親も姉も喜んでくれた。桜の舞い散るあたたかな日差しの中で百合耶は真新しい制服の匂いを嗅ぎながら校門をくぐる。

 「おはよう、山田さん。」

 同じ一年二組で少し話しをするようになった里見由香が声をかけてきた。

 「おはよう。いい天気だね。」

 百合耶も笑顔で答える。

 「今日、一時間目から実力テストだって。アンビリバボよねー、全く。」