いない…
彼女の痕跡が跡形も無くなっている。
一体何があったというんだ。僕がいない間に…
三日前、突然途絶えたメール。忙しいのだろう…そう思ってはみたが今まで途絶えることはなかっただけに、僕は妙な胸騒ぎを覚えた。
予定より1日早く韓国に戻ってきた。空港からユリンのアパートを訪ねたが、そこにはユリンの姿はなかった。
以前教えてもらった住所を手がかりに実家へ訪ねてもみたが、両親も理由も告げず出て行ってしまって…と困惑しているようだった。
ユリン、一体どこに行ってしまったんだ…
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「ねぇ今日のパーティーって皆さん奥様同伴かしら?」
「あぁ…そう聞いてるけど…なんで?」
「なんでって?着物の色かぶるとマズいのよ~特に専務の奥様はうるさいのよね。あ~どうしよう…。」
「あっ!そうそう明日のパーティーでさ、社長が俺たちに頼み事があるって言ってたぞ。」
「ふ~ん。何だろうね?別に明日じゃなくてもいいのにね。」
「なんだか紹介したい人がいるような事を言ってたな。」
「ふ~ん。そうなんだ。」
博之の話を聞きながらも私の頭の中は着物選びの事でいっぱいだった。
その日は、午後から美容院でセットとネイルを済ませ帝都ホテルへ
海外からのお客様もいらっしゃるとかで会社の奥様方は着物での出席となったのだ。
遅れて到着した博之と合流して、今上役夫妻への挨拶も一通り済ませたところ。
「ユリちゃん、久しぶり。」
会場入り口から笑顔でこちらに向かってくる佐々木のおじさまの顔が見えた。
「おじさま。久しぶりって二週間前にご自宅にお伺いしたばかりですよ。」
「ああ、そうだったかな?まぁ細かいことはいいじゃないか?」
「ところでおじさん。僕達に頼みごとって?」
「あ~お前たちに紹介したい奴がいるんだが…どうやら渋滞で遅れてるみたいだ。まぁ、直に来るとは思うんだがね。
お前たちびっくりするなよ。今流行りのイケメンだ。
私の友人でもあるLGグループの一人息子だ。今ちょうど親父さんについて来日中でな。仕事も一段落したんで観光にでも案内しようかと考えていたんだが。
あいにく私は、出張もあってゆっくりできないのでお前たちに頼もうかと思ったんだ。」
「あのLGグループ!おじさんもまた凄い人脈ですね。なぁユリ…。」
「あっ…ええ…。」
私の聞き間違いであって欲しい。
LGグループ…スンヒョン…
もう想い出したくない…何度も忘れようとしても忘れられない出来事。
あんなに悲しい想いは、こころの奥底にしまい込んだはずなのに…
頭が痛い…
なんだか息苦しい…
私、ここにはいれない…
博之…博之…苦しい…声が出ない…苦しい。
おじさまの携帯がなった。
「どうやら到着したようだ。ちょっと迎えに行ってくるからお前たちここで待っててくれ。」
「おい、かなりのイケメンらしいぞ。ユリ嬉し…」
「ユリ?どうした?気分でも悪いのか?顔が真っ青だぞ。」
「ハァ…ハァ…ハァ…ひろ…ゆき…」
そのまま床に倒れこんでしまった。
「ユリ!ユリ!しっかりしろ!」
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「スンヒョン様。まもなく到着でございます。」
思わぬ渋滞に巻き込まれ、佐々木氏との約束の時間ギリギリの到着となってしまった。
父親の友人でもある佐々木氏。何度か会った事はあったが、父親抜きで会うのは今日が始めてだ。
早速ロビーに佐々木氏の姿を見つけ遅刻を詫びた
今回、僕が佐々木氏に招待されたのは、明日東京を案内してくれるとかで、ナビゲート役の甥夫婦を紹介してくれるらしい…
僕としてはゆっくり一人時間を過ごしても良かったのだが、せっかくの好意だ。ありがたく受けなければ…
談笑をしながらパーティー会場に入っていくとなにやら会場の一角がやけに騒動しい…
日本語は得意じゃない僕は、状況を佐々木氏に聞く。
どうやら出席した女性が倒れたらしいとの説明だった。
人だかりに近づいていくといきなり佐々木氏が血相をかえて輪の中に飛び込んでいった。
「どうした?博之。ユリちゃん大丈夫か?救急車はまだか早くしろ!」
心配そうな表情の男性に手を握られ横たわる着物姿の女性が見えた。
あれがさっき話してた甥夫婦だろうか…
まもなく救急隊員が到着。担架に横たわった女性の顔をみて僕は言葉を失っった
ユリン…。
あれは、まさしく五年前に僕のもとから忽然と消えてしまった彼女…ユリンに間違いない。
どうしてここに…
一瞬にして五年前の苦しみに僕は引き戻されてしまった。
彼女を失った喪失感は未だ棘となって僕の胸に残っている…
何度忘れようとしたか…いっそ憎んでしまえば忘れられただろうか…いいや、憎めば憎むほど彼女への愛情の深さに打ちのめされるだけだった。
5年経った今も一度も癒される事のない僕の心。
どうして現れたんだ…
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サイレンの音と体のわずかな揺れで目が覚めた。
私の手を握りしめ心配そうに顔を覗き込む博之が見えた。
「ごめん…ね。」
「良かった…。」言葉に詰まり涙ぐむ博之。
そんな博之の顔を見ながら、私は遠い記憶におもいをはせていた。
スンヒョンがこの日本にいるのね…
何故だろう…憎むべき人なのにこんなにも愛しく思うなんて…
そんなことを考えながら再び睡魔に襲われる…
スンヒョン…。
私は、あなたと会うべきなのだろうか…。
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