いよいよパドヴァに発つ時が来た。
出発前日は、
いつも通りオリーブを収穫し、
いつも通り叔父さんと怒鳴りあい、
いつも通り叔父さんと冗談を言い合い、
いつも通りお昼はお医者さんを交えて
叔父さんのパスタを食べ、
お医者さんの煎れたエスプレッソを飲んだ。
「明日、出発でしょ?」
お医者さんに、そう聞かれた。
「そうなんだよ~。寂しいよ~。」
というと、お医者さんは、いつもの調子で
「え~~~。」
と気のない返事をしてベランダに出た。
「キッカ。なんでパドヴァなんだ。遠いぞ!
ジェノバの学校には変えられないのか!!」
ここ数日、何度か叔父さんが、そう言ってくれている。
実はお姉さんにも
「サボーナにだって学校はあるし!
私はスペイン語を教えてたりしたことがあるから、
イタリア語だって教えられるのよ!!
なんでパドヴァなの!!」
と言ってもらったんだ。
私も出来ることなら、そうしたいけど
パドヴァの学校に全ての授業料を前払い済みなんだよね。
学生ビザだから、事前に入金証明が必要だったの。
それを説明すると
「うぬぅ~。」
と苦い顔をする叔父さん。
「いつでも戻ってこい!
もし部屋がないっていうなら俺の家に泊まれ!
寝る場所は用意するから。
いいな、お前の好きな時にいつでも戻ってこい。」
嬉しさと離れがたさで涙が出そうになる。
「ありがとう。ブラック(犬)の小屋も一つ空いてるから、
いざと言う時は、ブラックの小屋に寝るよ。」
寂しさを抑えて、冗談を言う。
「パドヴァに行ったら自炊だろう。
オリーブオイル持って行け!!」
皆で拾い集めて搾油場でオイルになったオリーブオイル。
新鮮で香りがよくて、まろやか。
オイルだけを口に含んでも、
油の嫌な感じがしない。
「ペットボトルと、瓶、どっちに入れる?」
叔父さんに聞かれたので、瓶がいいと答えた。
樽の中からオリーブオイルをすくい取り、
瓶にオリーブオイルを入れてくれた。
そして、2本目の瓶を手に取る叔父さん。
え?!2本目?!
この1ヶ月でオリーブの実を集める大変さを
十分すぎるほど知っているので、
そんな貴重なオリーブオイルを
私に2本もくれるなんて、もったいないよ!!
叔父さんを止めようとしたが
「2本もっていけ!!」
と譲らない。
「3本目も持って行け!!」
と言うので、
今度は『もったいない』というか『重い』という理由で断った(笑)
みなさん思い出してください。
私の荷物は元々30㎏あるんです。
そして10㎏のリュックを背負ってるんです。
しかも、マンマにもらったヌテッラ(大きいやつ)も
荷物に入ってるんです。
「だから最初にペットボトルと瓶、
どっちがいいか聞いただろ!!
ペットボトルにすればよかっただろ!!」
いやいやいや!!
ペットボトルでもオイル3本は重いから!!
「私は瓶が良かったの!
また来るから、その時に3本目をくれ!!」
最後まで言い合いです(笑)
本日も焚火をする白ヒゲのおじさん。
「キッカ。これ食べな。キッカが好きだと思う。」
そう言ってエスプレッソのチョコをくれた。
チョコの中に入っているのはエスプレッソそのもの!!
なんて美味しいんでしょう!!
喜び小躍りする私。
白ヒゲのおじさんは、
いつものように焚火の注意点を教えてくれた。
そして焚火を眺めながら、ぽつりと話し出す
「明日出発かぁ。リグーリアの方が温かいのに
なんでパドヴァに行くんだぁ?
キッカは叔父さんと相性が良かったと思うよ。
ほら、叔父さんはいつも怒鳴ってばっかじゃん。
でもキッカは上手くやってたよ。」
ちょっと2人でしんみりした後に
「キッカ、おいで。ほらこのブドウ食べな。」
そう言ってブドウ棚から白ブドウを獲ってくれた。
種が多くて酸っぱくて、ちょっと切ない味です。
前にも使った写真だけど。
犬のおじさんともお別れの挨拶。
いつもちゃんと私の名前を覚えててくれて、
叔父さんと白ヒゲのおじさんが、
私を「キッカ!」と呼ぶと毎回毎回
「キッカじゃないよ!ciusca(チュスカ)だよ!!」
めげずに訂正してくれていたなぁ。
そして再び、ボートの近くで
作業中のお医者さんが声を掛けてきた。
ちょっと話をした後に
「明日は何時に出発なの?」
朝の出発だということをつげると
「あ~。俺、今夜、夜勤だから明日は会えないんだぁ。」
じゃあ、会えるのはこれで最後なので
「いろいろありがとう。さよなら。」
と別れの握手を求めると
「ダメ!ダメダメ!
さよならは言わないよ。また、すぐに会おう!」
『いや~ん♪カッコイイ~♪』
なんて思った人、大間違いですよ!!
この1ヶ月、共に過ごしてきて、私は知っているのです。
この男、作業中に手袋脱ぐの面倒だったから、
そんなセリフでごまかしたんだと!!(笑)
『お前は姫川亜弓かっ!!
(『ガラスの仮面』を参照ください。)』
心の中で、そう突っ込んだ。
お姉さんが「寂しくなったら食べなさい。」
マロングラッセと、飴の詰め合わせ。
うぅ・・・。
お姉さんには一番お世話になったなぁ。
「チェッレとパドヴァは遠いけど、なにかあったら
助けるから、かならず連絡してね。
家に来たい時は、好きな時に来るのよ。
電話もして、メールもして、パドヴァの写真も送ってね!」
もう、涙が出そうです。
最後に台所にいるマンマに
「マンマ、いろいろありがとう。
本当に楽しくて、快適で、
素晴らしい経験をさせてもらったよ。」
と言ったところで、思わず涙が出てきた。
「なんで泣くの!!
学校が休みになったら、すぐに戻ってきなさい!
ciusca(チュスカ)が好きな時に来ていいんだから!
これは別れじゃないんだから泣く必要はないのよ!」
この家族に出会えただけでも、
イタリアに来て本当に良かったと思う。
な~んて思ってると、
すぐさまマンマは
「さっきciusca(チュスカ)が台所で泣いてたから、
すぐ戻って来いって言ったのよ!」
と義理のお兄さんに大声で報告。
えぇ!
なんで、大声で言うの~!(爆笑)





