不動産投資ビジネスの新潮流 | Passのブログ (情報部屋)

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不動産投資ビジネスの新潮流、前回からの続きです。

(以下引用)

○不動産投資ビジネスの新潮流(3)常識は変わる(4)グローバル市場で存在感を示すアジア(ケンプラッツ・日経不動産)

http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/nfm/news/20111208/555932/

基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版/田辺 信之

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不動産金融を取り巻く環境が大きく変化するなかで、どのように市場を読み、戦略を練って、利益につなげていけばよいか――。日経不動産マーケット情報はこのほど「基礎から学ぶ不動産投資ビジネス 第3版」(田辺信之著)を発刊した。不動産投資に必要な基本的ノウハウを、実務に即して解説している。全面改訂した書籍のなかから、内容の一部を紹介する。

時代の流れというのは、いつの間にか私たちがそれまで正しいと信じていた常識を覆してしまいます。不動産市場に関しても同じことがいえます。

1990年代にバブルが崩壊するまでは、多くの人々が「土地は価格が上昇し続ける特別な資産である」という「土地神話」を信じていました。だからこそ、皆が借金をしてでも、急いで土地を買おうとしました。それが今では、「土地神話」を信じる人は誰もいなくなりました。

むしろ、地価下落が20年間近く続いている地方も多いので、そこで生まれ育った成人前の人にとっては、「土地は毎年価格が下がり続ける特別な資産である」という認識が生まれてもおかしくはありません。

同様にバブル崩壊までは、土地そのものに稀少価値を見いだしていたため、既に収益を上げているテナント付きの賃貸住宅よりも、更地に投資する方が好まれました。建物付きの土地を購入するときには、更地価格から建物解体費用やテナント退去費用などを控除して不動産価格を算出することもよくありました。更地の方が、価格も高く評価されたのです。

その頃はよく、「不動産は更地に限る」といったプロ同士の会話も聞かれたものでした。ところが、投資目的次第ではありますが、今では既に収益を上げている稼働物件の方が、更地よりも高い評価を受けることが多くなりました。

1990年代後半になってからは、企業が不動産を売却することについての認識が大きく変化しました。それまでは企業が不動産を売却するのは「業績が悪化したので、事業の立て直しのためにやむを得ず手放す」という印象が強いものでした。

ましてや、企業が本社を売却すると、「あの会社はいよいよ切羽詰まってきたのかもしれない」などと噂される恐れすらありました。ところが、90年代後半から2000年代前半、各企業がバブル時代に膨れ上がった借入金を返済するために、不動産や株式を売却して企業体質のスリム化を図るようになってから、状況が一変しました。

「すぐに利用しない不動産をそのまま抱えておくことは、経営陣の怠慢だ」とまで言われるようになったのです。本社ビルの売却なども「いよいよ本格的なリストラに踏み切ったようだ。これから先は期待できる」、「なかなかやり手の経営者だ」などと前向きに評価される場合も増えてきました。

2000年前後から大きな変化を見せたのは、不動産投資市場のグローバル化です。それまでは、「不動産業はローカルな(現地密着型の)産業だ」と言われていました。不動産はその名の通り「動かない資産」であって、一般の商品のように輸出や輸入をすることができませんし、不動産の所在する場所にいる人が、その地域事情に最も精通し、的確な投資判断や様々な交渉ができるからです。

たまに海外から日本に、あるいは日本から海外に投資することがあっても、それはあくまで個別取引であって、市場の潮流をつくるものではありませんでした。

ところが不動産証券化の普及が、この常識を打ち破りました。不動産の所在する地域に精通した人材が、投資に適した不動産を取得して証券化し、その証券を投資家に売るようになったからです。証券化する過程で、グローバルスタンダードに適合するようなデューデリジェンス(不動産の詳細な調査)が実施されますし、必要に応じて証券には格付け(格付け機関が証券の信用力を評価するもの)も付与されます。

不動産証券化の普及が不動産投資の「標準化」をもたらしたことによって、不動産投資のグローバル化が飛躍的に進展したのです。もちろん今でも、不動産業が本質的にはローカルな産業であることには変わりありません。ただ、それまではまったく相反するものと考えられていた「ローカル」と「グローバル」が証券化を通じて並立するようになったのです。

グローバル市場で、不動産の取引がどのような推移をたどってきたかを見ていくことにしましょう。世界的な好景気、金余りが続くなか、2000年代前半から2007年頃まで、米国、欧州、アジアのいずれの市場においても、不動産取引額は拡大してきました。

そのなかでも、2005年から2007年にかけて大きく拡大したのが欧州市場であり、この間に取引額は1.8倍となり、実額にして1430億ドルも増加しました。同じ期間で、米国は1.3倍、360億ドル増、アジアは2.5倍、610億ドル増でしたから、アジアの成長率は高かったものの、この間の取引額の拡大は実は欧州市場に依存するところが大きかったことがわかります。2007年の世界の不動産取引額の約54%が欧州市場でのものでした。

しかし、2008年の金融危機の少し前から世界の不動産取引は激減し、2008年には各市場とも前年の約半分の取引額にまで落ち込みました。その後、徐々に取引は回復してきますが、そのけん引力となったのはアジアでした。2010年と世界の不動産取引額がピークとなった2007年とを比較すると、米国は0.3倍、欧州は0.4倍にまで減少したのに対し、アジアは1.6倍と、金融危機前をはるかに上回る取引額となりました。この結果、アジアでの不動産の取引額は、2010年には世界の不動産取引額の半分近くを占めるに至っています。

こうした不動産取引のうち、投資家が自らの国外に投資するクロスボーダー投資は、経済情勢によって変わってきますが、全体の15%から35%程度となっています。市況の良い時期にはクロスボーダー投資の比率が高まりますが、市況が悪化するとリスク回避や投資資金の絶対額の減少などの要因により、投資家が最も知識経験を有する国内取引の比率が増える傾向があります。

また、これまでは米国の投資家が最もクロスボーダー投資を志向してきましたが、最近ではシンガポール政府投資公社や、マレーシアや韓国の年金ファンドなどもクロスボーダー投資を増やしてきています。

グローバル市場の動きを読むために大切なことは、全体の投資動向や資金の流れを大きくつかむことです。どの地域の投資家がどのような地域に投資しようとしているのか、リスクを取ってでも高い収益を追求しようとしているのか、それともリスク回避的な行動をとっているのか、それぞれの国の市況が不動産サイクル(不動産市況の周期的な動き)のどこに位置するかといった事柄です。

また、グローバル不動産投資市場の動きは、各国の政治・経済・社会情勢を反映しますから、インターネットなどを利用して、海外のニュースもできるだけ把握するようにしておくべきでしょう。案外に見落としがちなのが、為替相場の動きです。自国以外の不動産に投資をする場合、為替の動きによっては、自国通貨に換算した投資利回りが大きく変動します。

グローバル市場における日本の位置づけについても、そうした全体感のなかで捉えていく必要があります。日本の不動産投資に関しては、市場が不透明であるとか、海外への英語での情報発信が不十分であるとか、少子高齢化問題を抱える日本の将来性に不安があるとか、様々なマイナス面を指摘されることが多いようです。

しかし、日本の市場規模は世界第2位であり、かつ市場の安定性は極めて高いということを、きちんと認識しておくことが重要です。

アジアに向けられた投資資金のうち約4割が日本に投資されていることも、市場の安定性を裏付けています。一方で、これから国家間あるいは都市間での競争が激化するなかで、日本が競争力を維持できるのか、そのための条件は何かというような観点も常に持っておくことが必要です。(続く)