インサイダー取引 多発の理由 | Passのブログ (情報部屋)

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こちらも経済評論家:西野氏の日経コラムです。事実として、株式投資はインサイダーの比率が非常に高いので、機関投資家やヘッジファンドのグレーな陰陽の動きにもよく注意して行う必要がありそうです。しかし、インサイダー取引を定義する法制度そのものも結構いい加減であり、その辺の事情もよく理解しておくべきかもしれません。

○インサイダー取引はなぜ後を絶たないのか(日経)

http://www.nikkei.com/money/investment/stock.aspx?g=DGXNMSFK17032_17012012000000&n_cid=DSTPCS008

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インサイダー取引が多発しています。

インサイダー取引はなぜ多発するのでしょうか。その理由を挙げてみましょう。

(1)インサイダー取引は、1989年4月に法律で禁止されるまでは、違法な行為ではなく、一般に行われていたため、他の犯罪と比べて罪悪感が少ない。

(2)インサイダー情報を利用して株式の売買を行えば、短期間で儲(もう)かる確率が高い。

(3)金儲けの嫌いな人はいない。

(4)家族名義でやれば、本人と気付かれないという誤解がある。

(5)どんな取引がインサイダー取引に該当するかなど、インサイダー取引について詳しい知識を持っている人が少ない。

そこで、ついつい軽い気持ちでインサイダー取引に手を出してしまう人が少なくないのです。では、インサイダー取引はなぜ、すぐにバレてしまうのでしょうか。

(1)東京証券取引所や証券取引等監視委員会がコンピューターを使って、怪しい取引に常に監視の目を光らせている。

(2)情報が発表される前(株価が安い時)に買って、情報が発表された後(株価が大きく値上がりした後)に売る、家族の名義を使うなど、パターンが決まっていて、見破りやすい。

(3)証券会社に売買記録が残っているので、調査が簡単にできる。

(4)悪質な取引には泣く子も黙る東京地検特捜部が捜査に乗り出す。

(5)家宅捜査、逮捕、起訴もあり得る。

ほとんどの人が、インサイダー取引に何げなく手を出して、(4)や(5)の段階になり、初めて事の重大さに気が付き、真っ青になってしまうのです。

インサイダー取引とは、上場企業の関係者(インサイダー=内部者)でないと知り得ない情報(インサイダー情報)を利用して、株式投資を行うことです。

89年4月に施行された改正・証券取引法(現・金融商品取引法)によって禁止されています。それ以前は、インサイダー情報を他人より少しでも早く集めて、それを株式投資に活用することが、株式投資で成功する秘訣の1つのように考えられていました。

しかし、法律で禁止されてからは、インサイダー取引は法律違反=犯罪と見なされるようになったのです。

これに違反すると、5年以下の懲役、もしくは500万円以下の罰金、またはこれらの併科。さらに得られた譲渡所得が没収、あるいは追徴されます。法人の場合には、行為者が罰せられるほか、5億円以下の罰金が科せられることになっています。

「インサイダー(内部者)」とは、会社(親会社・子会社)の役員、従業員のほか、大株主、監督官庁の職員、会社と契約を結んでいる者(弁護士、公認会計士、監査法人など)などに加えて、これらの内部者から重要事実の情報を得た者をも指しています。

「重要事実」とは、上場会社(またはその子会社)における株式の発行・募集、減資、自己株式の取得、株式分割、余剰金の配当、株式交換、合併、会社分割、新製品・新技術の企業化、業務提携、事業の休止や廃止、解散、破産手続き開始、新たな事業の開始、主要株主の移動、資源の発見、業績予想の変更など、会社の経営や業績に大きな影響を与える事実のことです。

これらに該当する情報であっても、2社以上の報道機関に公表した時から12時間が経過した場合や、証券取引所のインターネット上、あるいはEDINET(エディネット)に公開された場合は、その情報を基に株式を売買しても、インサイダー取引にはなりません。

ちなみに、EDINETとは、内閣府と上場企業、証券取引所をコンピューターで結んだ電子情報開示システムのことです。金融商品取引法で規定された提出書類(決算書類など)を、インターネット上で見ることが可能です。

最近は、インサイダー取引で摘発されるケースが後を絶ちません。

例えば2012年1月、経済産業省の幹部(元・審議官)が職務上知り得たエルピーダメモリ、NECエレクトロニクス(現・ルネサスエレクトロニクス)などのインサイダー情報を利用して、妻名義で株式取引を行い、利益を得たとして、インサイダー取引の容疑で逮捕されています。

ちなみに、エルピーダメモリは99年、日本電気(NEC)と日立製作所のDRAM(半導体記憶装置)事業を統合してできた会社です。DRAMの大手企業ですが、DRAMの価格下落が響いて08年3月期、09年3月期と2期連続して大幅な赤字を記録。経済産業省と相談しながら再建を進めていました。

一方、NECエレクトロニクスはNECのマイコン・半導体部門が02年11月に分離・独立してつくられた会社です。06年から業績不振(大幅赤字)が続いていました。

この会社が10年4月、ルネサステクノロジ(日立製作所と三菱電機のシステムLSI事業を統合してつくられた会社)と合併し、ルネサスエレクトロニクスと社名変更しています。このルネサスエレクトロニクスは現在、マイコン(マイクロコンピューター)で世界一の大手ですが、業績低迷がいまだに続いています。

経済産業省の担当者がエルピーダメモリから再建計画(改正産業活力再生特別措置法の認定を受けた上で第三者割当増資による資本増強など)を聞き、それを上司である審議官(当時)に報告。また、同じように「NECエレクトロニクス(現・ルネサスエレクトロニクス)がルネサステクノロジと近く合併する」という報告を受けた部下が、そのことを審議官に報告しています。

それらの報告を受けた審議官は情報が公開される前に、NECエレクトロニクス株を09年4月に合計5000株、エルピーダ株を同年5月に合計3000株といずれも妻名義で購入し、正式発表後の高値で売却し、合わせて約200万円の利益を得た、と言われています。

09年2月から約1年2カ月で、この両社の株式を合わせて約1万9000株を売買し、800万円を超える利益を得ていたとも言われています。このうち、インサイダー取引が疑われているのは、約200万円の利益を得た取引です。

ちなみに、NECエレクトロニクスの株価は、09年2月24日の安値440円から同年4月24日1220円、10年4月30日1403円へと急騰。

また、エルピーダメモリの株価は09年5月28日の安値918円から6月9日1205円、8月21日1554円、10年1月15日1930円、4月15日2189円と大きく値上がりしています。

元審議官は「公知の事実に基づいた妻による購入で、インサイダー取引にはあたらない」と主張しているため、裁判で決着がつけられることになりそうです。

もし、仮に夫が職務上得た情報を妻に漏らし、妻がその情報を基に(夫に無断で)株式投資を行ったのであれば、妻がインサイダー取引で処罰されることになります。

一方、スイスではスイス国立銀行のヒルデブラント総裁の夫人(元・外為トレーダー)が為替取引で7万5000スイスフラン(約600万円)の利益を得ましたが、その取引にインサイダー取引の疑惑が浮上。総裁はその事実を否定したものの、辞任に追い込まれています。

というのも、スイスフランが米ドルやユーロに対して急上昇している時(11年8月)に、夫人が40万スイスフラン分の米ドルを購入。9月にスイス国立銀行がスイスフランに対して無制限の売り介入を行い、スイスフランを急落させ、ユーロに事実上、固定しています。

夫人は10月に急落したスイスフランを買い戻して、7万5000スイスフランの利益を得ています。

このため、妻は夫が役職上知り得た情報を元に、為替投機を行って、利益を得たという見方が広がったのです。

ヒルデブラント総裁は「(夫人の)外為取引は独断で行われた」「法律には一切違反していない」とインサイダー取引を否定し、総裁の座に留まる意向を示していました。

しかし、政界から辞任を求める声が高まったことから、12年1月9日、総裁を辞任しています。

ただし、日本でスイスと同じようなケースが起きても、道義上の問題が浮上して、辞任を求める声が強まる可能性はありますが、インサイダー取引として処罰されることはありません。

なぜなら、日本でインサイダー取引を禁止している金融商品取引法では、もっぱら上場会社(あるいはその子会社)のインサイダー情報を問題としており、それ以外のインサイダー情報を対象としていないからです。

例えば、政府が近く株価対策に乗り出すという未公表情報を政治家などから耳にして、株式投資を行っても、インサイダー取引とはなりません。


インサイダー取引は、本人名義で行われるケースより、家族名義で行われるケースが目立ちます。

家族名義であれば、発覚しない(「自分の取引ではない」と言い逃れができる)と考えているからでしょう。

「李下に冠を正さず」という言葉があります。李(すもも)の下で冠を直すと、すももを盗むのではないかと疑われる、ということから「疑われることをしてはならない」という意味に使われています。

経済産業省の幹部が、部下からインサイダー取引に該当する重要情報の報告を受けた直後、幹部またはその妻が関連会社の株式を売買して利益を得れば、インサイダー取引が疑われるのは当然のことです。

中央銀行が重要な為替政策の変更を実施した時に、中央銀行総裁の妻が為替投機で巨額の利益を得れば、インサイダー取引が疑われるのも当然のことです。

有力な情報が入ってくる部署にある者ほど、インサイダー取引が疑われるような行為をしてはならないのです。まさに「李下に冠を正さず」です。

しかし、大きな利益が目の前にぶら下がっていると、その魅力に負けて、ついつい手を出したくなるようです。

インサイダー取引には、破廉恥な犯罪という意識は薄く、どうせ見つからないだろう、という安易な気持ちを抱きがちです。

このため、インサイダー取引で逮捕される者が後を絶ちません。

かつて一世を風靡した投資ファンドの主宰者が、インサイダー取引で逮捕されたことがありました。彼は逮捕される直前の記者会見で「皆さん、金儲けはそんなに悪いことですか?」と記者団に問いかけていました。

それをテレビで見ていて、私が感じたのは「金儲けは決して悪いことではないけれど、不正なことをして金儲けするのは悪いことだ」ということでした。

インサイダー取引で摘発されたケースを見ると、上場会社の役員や従業員が最も多く、次に証券会社、マスコミ、監督官庁などの関係者が続いています。

自分には上場会社や証券会社、マスコミ、監督官庁などに知人がいないので、「インサイダー取引は他人事」「自分には関係がない」と考える投資家が少なくないはずです。ところが、インサイダー取引は、誰にでも起こり得ることなのです。

例えば同窓会などで、上場会社の役員になっている友人から、重要事実を聞かされて、面白そうだから、その会社の株式を買ってみようと考えることもあるはずです。

あるいはスポーツや趣味の仲間、または近所の人、親戚などから酒の席や茶のみ話などで、そんな情報を耳にすることがあるかもしれません。

その情報を基に株式を売買すると、仮に損しても、インサイダー取引に該当します。

もし、インサイダー情報を耳にして、これは株でひと儲けするチャンスだと思っても、決して、株式投資を行ってはいけません。得られるお金より、失うお金や名誉の方がはるかに大きいからです。

<筆者プロフィール> 経済ジャーナリスト・西野武彦 1942年愛媛県生まれ。中央大学法学部を卒業後、株式専門誌などの編集・記者を経て、87年に経済ジャーナリスト・経済評論家として独立。証券、金融、不動産から経済一般まで幅広い分野で活躍中。的確な読みとわかりやすい解説に定評があり、著書は90冊を超えている。「もっともやさしい株式投資」「『相場に勝つ』株の格言」「相場道 小説・本間宗久」(日本経済新聞出版社)などがある。