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皆さん、こんにちは。

船橋市議会議員の石川りょうです。

 

「年金を支払っているけど、将来はどうせもらえないよ」、「我が国の年金制度はもたない」という話が身近にありませんか?

私も同世代の人たちと話していると、たまにそのような話になります。

そうなのかもなぁと漠然と感じていたのですが、詳しく調べずにいました。

しかし、この本を読んで、その感覚が確信となってしまいました。

 

「年金100年安心プラン」という言葉は、2004年の小泉純一郎首相による年金改革のことです。

この改革の柱は以下の4点です。

(1)保険料水準固定方式の導入:将来にわたって保険料を引き上げ続けることをやめる。

(2)マクロ経済スライドの導入:約20年間で2割程度の年金カット。

(3)基礎年金国庫負担割合の3分の1から2分の1への引き上げ:基礎年金への税金投入の増額。

(4)無限均衡方式から有限均衡方式への変更:積立金の早期取り崩し。

つまり、改革の目玉は、20年かけての年金額の大幅カット(約2割)であり、現役層の保険料負担が重くなりすぎることを防ぐこと。そして、少なくなっていた積立金を再び積み増して、100年先まで現在の年金制度を維持できるようにすることです。

 

しかし、この目玉であった年金カットが実際には全然できていないのです。

当初の計画では、2004年から2023年までの約20年間をかけて、1年ごとに約1%ずつカットすることになっていました。しかし、物価上昇率がマイナスとなるデフレの年には年金カットを行わないという条件をマクロ経済スライドに付けてしまっていたのです。これはどういうことかと言うと、例えば、年間100万円の年金を受け取っている高齢者がいます。これまでの年金の仕組みでは、物価上昇率が1%であれば、翌年の年金額は1万円増えて101万円となります。これは年金額が増えたように見えますが、実際には物価が上がっていて、モノやサービスの値段も1万円分上がっているので買えるモノの量は変わりません。ここで1%の年金カットが行われると、翌年の年金額は101万円-1万円で100万円のままになります。この時、モノやサービスの値段は前年より1%上昇しているので買えるモノの量は1万円減っており、年金は実質的にカットされたことになります。しかし、額は変わっていないので気がつきにくい。ところが、物価上昇率が0%の時に1%の年金カットをしたら99万円になってしまう。それを防ぐために、デフレの年には年金カットは行わない制度(物価上昇率の小さい年にはカット幅を小さくする制度)にしたのです。

 

2004年以降の我が国経済の歩みについては、ご承知の通り、長くデフレが続いてしまいました。

その結果、年金カットが実現できた年は、2015年、2019年、2020年の3年だけであり、しかも、カット幅はそれぞれ、0.9%、0.5%、0.1%だったのです。2004年から2023年までに約2割カットする目標はどんどん先延ばしされ、今では年金カットの終了年が2047年とされてしまっています。この間に、予定では払われていなかったであろう分の年金が支払われ続け(過剰給付)、収支の帳尻は合わず、年金財政の状況は刻一刻と悪化しています。

 

年金制度には5年ごとの財政検証という名の健康診断があるのですが、最新の2019年の検証では複数のシナリオが示されており、最悪のシナリオでは、2052年に積立金は枯渇し、その後は完全賦課方式に移行せざるを得ないとされています。完全賦課方式というのは、現役層から徴収できる保険料の範囲内に高齢者の年金給付を絞るということであり、その時の所得代替率*は36~38%になると試算されています。つまり、現在の年金額の半分強までカットされることになってしまうのです。そして、そうなる時は2052年以降。つまり、今の現役世代や若者、将来世代なのです。

*所得代替率:現役層の所得に対する年金額の割合(65歳の高齢者が受け取る年金額が、現役男子のボーナス含めた平均手取り収入額に占める割合。100年安心プランでは、これを2023年までに約5割に削減する計画だった)

 

最悪シナリオの場合なのだから、実際は大丈夫だろうという考えもあるかもしれません。しかし、厚労省によるこの財政検証は、①積立金の運用利回り、②賃金上昇率、③物価上昇率などの指標を用いてはじき出されているのですが、最悪シナリオ以外のシナリオ(ケースは最悪シナリオ含めて6つある)の上記3指標の予測は楽観的過ぎると私も思います。著者の鈴木氏は「粉飾決済」という言葉まで使っています。ご関心のある方は、是非この本を実際にお読みいただき、詳細を把握していただきたいと思います。

 

年金会計にはバランスシートが存在します。

企業の貸借対照表と同様に、左側が資産、右側が負債です。

このシートから分析できる「年金純債務」(現在の高齢者の方々にこれから国が支払う予定の年金総額から、その支払い原資として過去に彼らから徴収してきた保険料の総額を差し引いた、いわゆる現在の高齢者の「もらい得」)は1110兆円。「将来純負担」(現在の現役層と将来世代がこれから支払う保険料と税金から、彼らが将来に受け取る予定の年金総額を差し引いた値、つまり、現在の現役層と将来世代の「支払い損」)も1110兆円です。要するに、現在の高齢者の「もらい得」は、必ず現役層と将来世代の「支払い損」になるということであり、その額は、現在の政府債務(1182兆円)と同じくらいの規模であり、将来世代はその負債も背負っているということです。年金改革が進んでいない(年金カットが先延ばしされている)ため、この額は年々増加しています。さらに、このコロナ禍で経済がデフレ基調に戻り、年金カットがさらに先延ばしされることが予想されています。いったいどうなってしまうのでしょうか?

 

現状の年金制度を維持したいのであれば、①コロナショックを理由に、通常は5年に1度の年金財政検証を特例的にすぐに行い、状況を正しく認識したうえで、②マクロ経済スライドをデフレ下でも停止せずフル稼働させる制度改正を行い、③これまで遅れてしまっていた分を取り戻すべく年ごとのカット幅をより大きくし、④支給開始年齢をさらに引き上げなければならないというのが本書の提言でした。

 

年金改革は政争の具になりやすく、我々国民も年金の額を減らすなんて許されない!という議論になりがちです。

しかし、我々国民も現実を直視しなければなりません。

年金財政が破綻してしまっては、そもそも年金給付どころではなくなってしまいます。

先送りは将来世代へのツケを増大させるだけです。

必要な改革には直ちに向き合わなければならないのだと考えます。

 

2021年3月31日 船橋市議会議員 石川りょう

石川りょう公式ホームページ