皆さん、こんにちは。
船橋市議会議員の石川りょうです。
 
議会閉会中の読書は勉強でもあり楽しみでもあります。
2019年5月の議員2期目から2年間勤めている健康福祉委員長の任期が間もなく終わります。
正直に申し上げますと、社会保障や福祉の分野はこれまであまり携わったことのない分野でした。しかし、扶助費など福祉の経費は船橋市の財政の約4割にも及ぶ最大の分野です。あえてこの分野に飛び込ませていただき、少しでも知見を増やそうと考えて委員長に立候補しました。
 
委員長としての2年間の中で、社会保障や福祉に関する分野の本を複数冊読みましたが、この本は興味深いと思ったのが、「社会保障と財政の危機」(著者:鈴木亘氏)でした。
 
自分への備忘録も含めて、今日は、この本に書かれていた介護分野への提言についてまとめたいと思います。
 
今次コロナ禍において、介護分野は大きな打撃を受けたと思います。
それは、介護事業者(従事者)、要介護者、その家族含めてです。
 
実際、船橋市議会健康福祉委員会でも、コロナ禍における参考人招致(聞き取り調査)で、市内介護事業者の代表者の方々にお越しいただき、状況をご説明いただいて政策提言につなげたことがありました。
 
密閉、密集、密接のいわゆる3密に当てはまってしまう業界であり、本当にご苦労をされている生の声を伺いました。
 
しかし、「社会保障と財政の危機」の中で書かれていたことは、介護分野の窮状は、何もコロナ禍だから特別に起こったのではないと。コロナ禍でより見えやすくなっただけなのだということでした。私もそう思います。
 
どういうことか?
要介護者のお手伝いをする大切で重要な仕事であり、業務量も多く責任も重い仕事でありながら、介護報酬や人件費は低く、人材不足が顕著なのです。その証拠に、コロナ禍前の2019年4月時点の介護分野の有効求人倍率は3.8倍。全産業平均の1.38倍を大きく引き離しています。訪問介護ヘルパーの有効求人倍率に至っては14.75倍だったのです。
 
この状況を改善するためには、根本の構造から変革しなければならないと提言しているのが本書でした。
ITによる労働生産性の引き上げや事務の効率化、規模の利益と範囲の利益の追求などの提言もありましたが、私が興味深いと感じたのは、以下の3点になります。
 
(1)介護報酬の2割引き上げ
介護労働力不足を解決する一番の方法は、介護報酬の本体価格をきちんと引き上げること。受益分の対価をきちんと支払うことであると。今は税金を投入しすぎていて安すぎると。しかし、介護報酬を引き上げれば、その分、財源である保険料や税負担を引き上げなければなりません。他の産業並みの賃金に引き上げるためには、第1号被保険者(65歳以上)の現在の介護保険料である月額5,869円から7,000円程度への引き上げ。そして、第2号被保険者(40歳から64歳)も同程度の引き上げ。さらには、40歳未満の方々も含めて税負担が上がることを覚悟しなければならない。
 
船橋市でもそうですが、介護保険料を100円引き上げるだけでもかなりの意見があります。政治的に簡単なことではありません。しかし、今の介護水準と料金を将来も維持したいのであれば、いずれは引き上げなければならないことだと私は思います。
 
(2)混合介護の導入
混合介護とは、保険サービスと保険外サービスの同時併用を認める制度です。
サービスの質が高いことなどを条件に、介護報酬以上の料金設定を認める。例えば、身体介護の介護報酬は、1時間当たり約4,000円だが、これを4,500円とし、このうち500円が保険外料金であり、利用者は保険サービスの1割と合わせて900円を自己負担する。そうすると、ヘルパーの時給は500円も上がるという理論です。一方で、介護保険からの給付は今までと変わらないので、介護保険料や税負担が上がることはありません。この保険外料金の500円が付加価値です。その部分をヘルパーや事業所のアイデアや努力の余地とするのです。努力次第で賃金がアップする可能性があるため、労働力の確保につながる可能性があるのではないでしょうか?努力しなくても同じという現行制度は、悪平等で不健全な仕組みのような気がするのです。現行の保険制度は維持しつつ、健全な市場メカニズムを介護分野にも導入するべきだと思います。現在、東京都豊島区が国家戦略特区制度を使って実施している「選択的介護」がこの考え方に近い制度とのことで、その経過や結果などを注視したいと思います。
 
(3)家族介護への現金給付
家族にヘルパー役を担っていただき、現金給付も行うというものです。
すでに、ドイツや韓国では実施されているようです。
自分たちで介護をして収入を得るか、外部のヘルパーや介護施設のサービスを利用するかを選択するのです。
ただし、家族介護はプロではないので、ドイツでは介護士さんの6割程度の給付になっているようです。しかし、それでも同国では約6割の人が家族介護を選択しているという興味深いデータがあります。現金給付が介護保険の財政費用を節約しているという見方もできるかもしれません。
 
船橋市の介護事業を見ているだけでも、その財政のやりくりは大変だということがわかります。今後、ますます少子高齢化が進むと、もっともっと大変になることは目に見えています。現在の制度の維持が難しくなっている今、これくらいの抜本的な制度見直しをしなければいけない時代に差し掛かっているのかなと考えます。
 
2021年3月29日 船橋市議会議員 石川りょう