このように書いてみると、当たり前のことをしているだけではないか?民間企業では当たり前だ、という印象を持たれる方も多いと思います。かくいう私もそう思います。しかし、それが当り前ではなかったお役所を変えたことに北川元知事の功績があるのだと思います。それほどにドミナント・ロジックとは強固なものであり、そこにいる人にとっては考える余地も無い「当たり前のこと」として定着しているものなのです。この役所のドミナント・ロジックを定着させてしまった責任は、このような制度や組織を作った政治や行政だけの責任ではなく、それを甘んじて受け入れ、「政治は政治家がやるもの」「行政は役人に任せるもの」としてきた我々国民(市民)一人ひとりにもあると考えます。

 

このようなドミナント・ロジックを打ち破れる人間こそが、選挙によって選ばれる政治家だと思うのです。ドミナント・ロジックにどっぷり浸かってしまっている役人にはなかなかできないことなのだと思います。改革しようとすれば、当然、反発もあるでしょうし、抵抗もあると思います。北川教授も、知事に就任したての頃、改革を断行しようとした矢先に、職員からこんなことを言われてしまったそうです。

 

「夜も寝ないで、汗水たらしてやるよりも、安定した職場でゆっくり生活を楽しみたくて県庁職員になった。改革、改革といったって、誰もついてきませんよ。」かなりきついですね…。レベルは違いますが、私にも似たような経験があります。青年海外協力隊員として、ケニア西部の貧困農村地域に派遣されていた頃、若くエネルギーに溢れ、早く目に見える成果を出したかった私は、一生懸命に頑張った…つもりでした。しかし、昔からその地に住み、一見貧しくとも特に不自由なく生活していたケニア人と、ケニアに行く前から、ケニア(の貧困地域)を何とかしなければならないと思いこんでいた私とでは、気持ちの違いといいますか、モチベーションの温度差が激しく、私だけ一人で突っ走ってしまい、結果的に誰もついてこなかったという苦い経験があります。

 

北川教授は、このような状況にあって、職員とのダイアログ(対話)を最重視したということです。お互いがお互いの考えていることを徹底的に議論し合う。自分の考えを相手に伝える。相手の意見を真摯に聞く。このようなダイアログにかなりの時間を費やしたそうです。その際に、北川教授が、全ての決断や判断の根拠とした視点が「生活者起点」という概念です。

 

2013730日 石川亮(いしかわ りょう)