726日(金)は、元三重県知事で、現在は早稲田大学公共経営大学院教授である北川正恭氏の貴重なお話を聞いてきました。実は北川教授は、9月からはじまる私の大学院生活における超重要人物なのです。私が進学するのはこの大学院です。北川教授の話を聞いて、ますます大学院への進学が楽しみになりました!

 

教授の講演に先立って、私はその準備のために、教授が執筆された「生活者起点の行政革命」という本を読んでいきました。当日の教授のお話とこの本には、私が学ぶべきことがたくさんありましたが、今回の私の一番の気づきは、当たり前のことなのですが、「知事は県庁のトップである」という事実でした。

 

私たち一般市民からすると、有権者から選ばれる立場である首長は、選挙の際に、「●●県をこうします!」とか「○○市の将来のために!」という感じで、我々県民や市民を対象にお話をされたり、公約を設定するため、県民(市民)のトップであり、代弁者だという意識を、我々県民(市民)は持ちがちだと思います。実際、私自身もそうでした。しかし、同時に、知事であれば県庁や都庁の、市長であれば市役所のトップでもあるのです。

 

したがって、その仕事は県庁(市役所)職員との仕事が多くを占めることになるのです。言われてみれば当たり前のことですが、忘れていませんでしたか?首長たちは、いつもはその都道府県、あるいは市町村の職員たちと仕事をしているのです。

 

北川教授が三重県知事時代に最も成功したことは、県庁職員の意識改革を実行し、成し遂げたことだと私は思っています。「ドミナント・ロジック(その時代や場所を支配する論理や空気のこと)を打ち破ってほしい」。教授は、講演の冒頭でこのようにお話しされました。皆さんは、公務員(特に地方公務員)のドミナント・ロジックと言われれば、どのようなものを想像されますか?「国の出先機関」、「前例踏襲」、「できない理由を並べて新しいことを実行しない」、「安定した職場でゆっくり生活を楽しむ」。もちろん、上記は、私の私見であり、間違っている面も多々あると思います。しかし同時に、「お役所仕事」という言葉が世間的に流布している事実がある通り、上記のようなイメージが広く国民一般に定着していることもまた事実だと思います。

 

北川教授は、知事時代、上記のドミナント・ロジックをぶち壊したのです。一人ひとりはとても優秀な公務員。彼らの能力ややる気を発揮させてやれる体制になっていないことが問題だと考え、職員の意識改革から組織・制度改革まで大ナタを振るわれたのです。たくさんの改革を実行されましたが、私が特に印象に残ったものは、①職員の一口提案制度、②若手職員によるワーキンググループの設置、そして③庁内「さわやかサークル」の設置です。

 

①「職員の一口提案制度」とは、三重県庁職員に、日々の仕事の中で気づいたこと、改善したいこと、要望や意見等を広く聞き入れるための制度です。「言えば変わる、光る提案ならば実行に移される、これまでの三重県とは全く異なる」という職員の意識改革のために創設されました。それまでにも似たような制度があったそうですが、毎年100件ほどしか提案はされていなかったそうです。北川元知事(以下、知事)は「それではだめだ!制度が形骸化している」と担当者に厳しく伝え、職員への周知を徹底させたところ、その年には4,000件を超える提案が来たそうです。

 

しかし、ただ来ただけではダメ。これを実現させてこそ、職員の見方や意識が変わるのです。知事は担当者に、徹底的に職員からの意見に対応することを求めました。全ての提案を「窓口案内業務改善」「職場環境改善」「後方業務改善」等に分類し、601項目に整理して「アイデア集」としてまとめて公表したのです。提案の具体化は3年かけて行い、実際に制度的改善につながった提案は55項目、予算にして17億円にのぼったそうです。

 

このことは、提案したアイデアが良かったり、正しければ変わる、そして「県庁は変わった」という驚きと感動を職員に与える上で絶大な効果があったそうです。20章でご紹介した鈴木直道夕張市長もおっしゃっていましたが、職員の話や提案をただ聞くだけでは駄目なのです。それを実現させる努力を、トップがしなければいけないのです。それこそがトップの仕事です。

 

②若手職員によるワーキンググループの設置ですが、若手職員のフレキシブルな発想を県政に生かそうという試みで、庁内にワーキンググループを設置し、庁内改革や地域振興などについて議論し、出てきたアイデアは実際に実行しててもらったのです。効果はてき面で、実際に県民と協働した新たなイベントなどが実現したそうです。

 

これは市町村の役所にも当然適用可能です。市職員の最大の顧客は市民(生活者)。その生活者の実態や生活を知るために、市職員が生活者の中に混ざっていくことや、一緒に課題に取り組む経験は必ず必要だと思うのです。仮に私が首長になった暁には、「一人ひとりの市職員こそ市民活動家たれ!」を合言葉に、地域活動やコミュニティ活動を、それぞれの市職員の興味・関心にグルーピングして所属させ、そのグループ毎に自治体やコミュニティ(自治会や町内会など)に入れてもらって、課題に取組んでくるという試みを行いたいと考えています。活動成果は、市役所内外に対して活動報告会を行うこととし、どんなことが達成できたのか、どんな反省があったのかなどを共有し蓄積する。こういった取組みこそ、市職員の経験や知識の向上につながりますし、市民にとってもプラスになるなど、まさに一石二鳥の事業となると思うのです。

 

③庁内「さわやかサークル」の設置ですが、これは各職場(部局や課)で特定の問題意識や改善テーマを持った職員が集まり、具体的な改善提案を行う小集団のグループを設置するものです。知事の在任期間中に約200にのぼるサークルできたということです。ここでの議論から、窓口の改善や独自の名札など数多くの職場改善が生まれたそうです。省庁とは、タテの組織構造が常識。この常識を覆し、ヨコのつながりを生み出すことによってイノベーションを起こしたのです。

 

2013730日 石川亮(いしかわ りょう)