(2)大忍の人:野田佳彦

「大忍」という言葉は造語です。私が作ったのではありません。松下政経塾・塾主である松下幸之助さんが作った言葉です。意味は、「普通の人が耐える以上に耐え、辛抱する以上に辛抱すること」で、政治家になる人(松下はリーダーになる人全てに対して)の必須条件だということです。

 

内閣総理大臣にまでなった野田さんが、かつて落選された経験があることをご存知ですか?国政2期目を目指した野田さんは、新進党から出馬した1996年の選挙で、105票差で落選を経験しているのです。それからの38ヵ月、野田さんは浪人生活を送りました。

 

たった105票差での落選ということもあり、悔しくて納得がいかなくて、もんもんとした日々を過ごされていたようですが、あるとき参加した集会で聞いた「アサガオの話」が野田さんを変えました。「アサガオが早朝に可憐な花を咲かすには、何が一番必要か」という問いかけがありました。野田さんは、「一番必要なのは、太陽の光だろう」と思って聞いていたそうですが、その講師は「あえて一番必要なものと言えば、その前夜の闇と冷たさである」と話したのです。野田さんは、これを自分のことだと認識したそうです。「夜の闇を知って、初めて明かりが嬉しいと思う。冷たさを知って、初めてぬくもりが嬉しいと思う」。ここから野田さんは完全復活し、朝の街頭立ち、訪問やミニ集会、思いつく活動は全て行ったそうです。

 

国会議員に返り咲いた後の2002年の民主党代表選挙にも立候補し、敗れた経験もあります。このような苦難を「大忍」の精神で乗り越えて、野田さんは内閣総理大臣にまで登りつめたのです。

 

(3)スピーチの名手

パフォーマンスはありません。派手さもありません。野田さんは、たんたんと、落ち着いてゆっくりお話しされます。しかし、内容がわかりやすいし、小ネタは面白いし、何より安心感があります。特に私が感心したのが、原稿など見ないでお話されることです。そして、聴衆一人ひとりの反応を見ながら、内容や小ネタを変えていると思います。そして絶対に失言をしません。

 

今日の講演が終わった後、たくさんの聴衆と一緒に、ホテルから駅に向かったのですが、皆さん口々に「面白かった!」、「話がうまいね」と称賛していました。かくいう私も、すっかり話に引き込まれ、気づきあり、笑いありのあっという間の1時間でした。

 

はっきり言って、私のスピーチスタイルと野田さんのそれとはまったく違います。経験の浅い自分のスピーチを野田さんのスピーチと比較することが失礼にあたると思いますが、私もこれまでの人生の中で、様々な機会に人前でスピーチをさせていただく機会をいただきました。スピーチコンテストで表彰されたこともあります。私のスピーチスタイルご参考:<iframe width="420" height="315" src="//www.youtube.com/embed/zqEDYrKsd4A" frameborder="0" allowfullscreen></iframe>

 

どちらかと言うと、私は劇場型と言いますか、アドレナリンを放出して熱くなるタイプ。盛り上げるのは得意ですが、下手をするとパフォーマーのようになってしまいます。好き嫌いがわりとはっきり分かれる話し方だと分析しています。聴衆の反応に合わせてというより、突っ走ってしまう演説で、調子に乗ると失言してしまう可能性もありそうな雰囲気がします。

 

対する野田さんは、ゆっくりとたんたんと話すタイプ。派手さや華はありませんが、話の内容がしっかりしていることと、安心感があることから、好き嫌いなく誰もが聞ける演説だと思います。そして、小ネタも面白いため、笑いもあります。カリスマ選挙プランナーの三浦博史さんも著書「心をつかむ力」の中で述べているように、「静かにゆっくり話す」ほうが、相手に安心感を与え、好感をもたれるのかもしれません。

 

もちろん、私も私のやり方に自信と信念を持っているため、今すぐ変えるということはしませんが、とても参考になる「話の仕方」だなと思いました。

 

この野田さんの、安心感を与える素晴らしい演説スタイルも、一朝一夕にできたものではないと思うのです。今でこそ選挙の王道であり、若くて三バンの無い候補者が当選するための一番の方法となっている街頭演説ですが、その元祖は野田さんではないでしょうか。

 

千葉県議会議員に立候補を決めた時から、平日の朝6時から9時まで、毎朝、街頭演説。月曜日は津田沼駅の北口で、火曜日は船橋駅の北口、水曜から金曜日は市内の他の駅をローテーションで回る。どんなに深酒しても午前5時には起床して駅に向かう。週単位で「かわら版」という政策ビラを更新し、配布した。これを、財務大臣になってからも続けていらっしゃいました。さすがに内閣総理大臣となってからは、船橋市内の街頭で見ることは無くなってしまいましたが、本当に頭が下がります。

 

13時間マラソン辻説法といって、同じ場所で、朝7時から夜8時まで、一日13時間の街頭演説を行っていた時期もあるそうです。さらに、一か所にとどまらず、ハンドマイクをかついで歩きながら演説をしてみるという試みも行ったそうです。一日中歩くだけでもかなりのカロリーを消費するのですが、しゃべりながら歩くのは、さらに苦行だったそうです。それでも、団地の中に小さな公園を見つけると、滑り台の一番上に登り、一棟一棟に向かって演説をしたそうです。この歩きながらの演説によって、10日間で10キロ痩せたそうです。

 

このような場数の経験が、努力の積み重ねが、現在の「演説の名手」としての野田佳彦さんを作っているのだと感じました。

 

私たち三バンを持たない者、これまでの経験も無く政治家を志す者には、このやり方しかないのだと思います。私もやらなければなりません。早くやりたくてうずうずしていますが…(笑)。

 

「常に志を抱きつつ懸命に為すべきを為すならば、いかなる困難に出会うとも道は必ず開けてくる。成功の要諦は、成功するまで続けるところにある」。この「素志貫徹の事」という言葉が、松下政経塾五誓の中で、野田さんが最も大切にしている言葉だといいます。まさしくこの言葉通りのことを彼は実践されてきたのだと思います。尊敬します。

 

私はこれから、野田さんがやったことは全て実行しなければならない。そして、彼を超えるためには、それ以上のことをしなければならない。言うは易し、行うは難し。彼は、まさしく「他を頼り、人をあてにしていては、事は進まない。自らの力で、自らの足で歩いてこそ他の共鳴も得られ、知恵も力も集まって良き成果がもたらされる」という松下政経塾の五誓を体現した人。前例や見本のない道を、自らの力で、自ら歩き開拓してきた人。私は今日、本物の政治家というものを見た気がします。こんな近く(船橋市)に、最高のお手本であり、最強の壁がいてくださることに感謝をしなければなりません。今日からまた頑張ります!!

 

201381日 石川亮(いしかわ りょう)