2.鈴木市長の夕張での2年間

さてさて、夕張の市役所に派遣となった鈴木市長ですが、初日から洗礼を受けたようです。初日ということで、「自分の歓迎会でもあるのかな~」と期待していたそうです。そうこうしているうちに、夕方5時を回る頃、職員の方々が、席を立ち始めたそうです。「お、いよいよか」と期待していたそうですが、そこから彼らが取った行動は、サッカーの監督が冬場によく着ているような厚手のコートを着始めて、手には薄い手袋を着用し始めたというのです。

 

最初はこの奇妙な光景の意味がわからなかったそうですが、夜も更けてくると身にしみて理解したそうです。何と言っても寒い!!冬の夕張はマイナス10度もくだらないという極寒の地なのです。しかも、夕張市は財政破綻した市。午後4時半には経費節減のため暖房が切られてしまうのです。しかし、たくさんの仕事が残っている。職員の皆さんは寒さの中、残業をされていたのです。心に余裕の無いときには、他人のことは思いやれないもの。とうとう鈴木市長の歓迎会は開催されなかったそうです。しかも、あまりの寒さのため体がおかしくなってきた鈴木市長は、午後11時に「今日は初日のため、早退させていただきます」と言って職場を後にしたそうです。11時ですからね。

 

このような仕事環境です(仕事はたくさんで環境は劣悪)。たくさんの職員が仕事を辞めていき、残った人員でますます仕事は増えていくという悪循環に陥っていたそうです。私はこの話のくだりでも、やはり自分の協力隊時代のことを思い出しました。ケニアに派遣された私は若く(22歳)、やる気に満ち溢れていました。「何とかして1日でも早くこの国(正確には自分の派遣された地域)を何とかしたい、結果を残したい!」しかし、昔からその土地に住んでいる住民に、私と同じ気持ち、モチベーションなどあるわけがありません。自分と彼らの気持ちのギャップに愕然としていた頃の自分を思い出しました。

 

都庁からの任期は1年でした。しかし、鈴木市長曰く、「自分を知ってもらうのに半年。地域のことに少し踏み込めるようになるまでに1年。」1年間では何もできないということで、市長はもう1年の夕張勤務の延長を申し出て承認されました。本当にいよいよ青年海外協力隊と同じですね。任期は2年。最初の1年では地域や生活に慣れることで精一杯で何もできません。出来る可能性があるとすれば、最後の1年間なのです。この最後の1年間を有効に使われたのが鈴木市長です。夕張全市民対象のアンケート調査を実施されたのです。

 

夕張市の人口は約1万人。当時は6千世帯あったそうです。この人数に対して、一人ひとり訪問してアンケートを実施するなんてとても無理です。しかも、財政破綻して有名になっていた夕張市には、大学やマスコミなどが殺到していて、それまでにもたくさんのアンケート調査が行われていて、住民の皆さんも、正直、辟易していた状態だったそうです。ここで鈴木市長がとった行動は、①まずは夕張市民の理解を得る努力をすること。市民がアンケートに辟易していた最大の理由は、アンケートに協力しても、北海道や国に吸い上げられることは無く、メリットがまったく無かったことにありました。ここを変えようと、鈴木市長は、「このアンケート結果は、必ず北海道と国に届けます!」と約束して協力を取り付けたのです。

 

しかし、6千世帯なんてとても一人では回れないし、市役所の職員も日々の仕事で精一杯でやれない。どうしよう?ということで、②母校の法政大学と、夕張市で調査実績のあった北海学園大学の学生をボランティアとして調査を手伝ってもらい、実現させたのです。

 

しかし、北海道にも、国にもアンケート結果を届けますなんて宣言しておいて、両者ともに当てなんてない。そこで尽力したのが②マスコミを味方につけることでした。必死でマスコミに電話やメールをして、「大学生たちが一生懸命、夕張市民に対してアンケート調査をしているところを取材しませんか?」と働きかけたそうです。その結果、多数のマスコミの取材を受け、全国でも取り上げられたのです。

 

この話、どこかで聞いたことがありますよね?私がブログの第18章で書いた渡邉英彦・富士宮やきそば学会会長の手法です。マスコミを味方につけることの大切さがここでも実証されています。いかにしてマスコミを引きつけるか。政治家にも実業家にも事業化にも、成功のための大きな要素ですね。

 

この全国での報道・知名度をもって、総務省に働きかけたところ、大臣や副大臣から、アンケート結果を受け取るというお墨付きをもらったのです。そうなると北海道の態度も急変。総務省に上げる前に是非うちにも共有してくれということだったそうです。実際に北海道庁にアンケート結果を提出する際には、プレスリリースを出し、記者会見を開いて大々的に報道してもらったのです。

 

このような大規模なアンケート調査を実施しようと考えただけでもぶっ飛んでいますよね(私はこの「ぶっ飛んでいる」という表現を肯定的な意味で使用しています)?そして、それを実際に実現させてしまった行動力と、学生やマスコミを巻き込み、北海道や国を動かした戦略。これだけでも、鈴木市長は夕張市に対して本当に大きな貢献をされたことと私は思います。はっきり言ってすごいです。勇気をいただきました。

 

鈴木直道市長の夕張での800日間ドキュメンタリーはこちら。
その①
その②

 

2013718日 石川亮(いしかわ りょう)