静岡県の昔話
昔、伊豆の山中新田に新吉という若者がいた。
ある夏祭りの夜、新吉は玉沢村のお玉と出会い、将来を誓い合った。後日、新吉がお玉の両親に挨拶に行くと、なんとお玉は流行り病で死んでしまっていた。
新吉は悲しみに暮れ、それ以降家にこもりがちになった。月日は流れ、その年の秋の彼岸、新吉は伊豆の日金山に登ることにした。それは、秋の彼岸に日金山のふもとのお地蔵様にお参りして山へ登ると、会いたい人とそっくりな人に会えると言われていたからだ。
新吉は、せめて一目でもお玉を見たいという思いに駆られ、ふもとのお地蔵様へお参りして日金山へ登った。しかし、結局夕方になってもお玉に似た女性には出会えず、新吉が諦めて帰ろうとお地蔵様の横を通り過ぎようとした時だった。お地蔵様の足下の小石がひとつ転がった。その小石を拾ってお地蔵様の足下へ戻すと、一人の老婆が驚いた様子でこちらを見ていた。
その老婆が言うには、自分は江戸日本橋の糸屋(繊維問屋)の女将で、先年、一人娘に婿を迎えたのだが、その婿はすぐに亡くなってしまったのだそうだ。そのショックで娘は寝込んでしまい、療養のため熱海の温泉宿に来ていた。そして、新吉はその亡くなった婿にそっくりだと言うのだ。
老婆に連れられて温泉宿に行ってみると、なんとその女性はお玉にそっくりだった。しばらくして娘の病は癒え、この奇遇により娘と新吉は結ばれ、新吉は糸屋の婿に迎えられた。 伴侶を亡くした者同士が、ふとしたことでお互いの亡くなった伴侶にそっくりな者に出会えたという不思議な話だった。
出典:日本昔話データベース