岐阜県の昔話

昔、岐阜の荒田川の川縁に、村人たちが沢山の綿を作っていた。

 

ある夜のこと。五作じいさんの綿畑が何者かに荒らされていた。綿の花は摘みきったものも、そうでないものも乱暴に摘み取られていた。この日を境に綿畑は毎晩のように何者かに荒らされるようになり、静かな村は大騒ぎになった。

 

この騒ぎは了福寺の和尚の耳にも入り、黙っていられなくなった。その夜、和尚は畑を荒らす犯人を捕まえるため、荒縄を持って綿畑に忍んだ。すると川のあたりに何やら影が見え、影は綿畑に入っていった。和尚はこの影が犯人と確信し、ゆっくりと犯人に近づいた。異変に気付いた犯人は逃げようとしたが、あっという間に和尚に捕まり、寺へと連れて行かれた。

 

 

綿畑を荒らした犯人はなんと河童だった。和尚はなぜ綿畑を荒らしたのかと尋ねると、河童は自分の娘が満月の夜に嫁入りすることになり、何とかして娘に晴着を着させたいが為に綿畑から綿を盗んだが、綿と種をどう分ければいいか困っていたことを打ち明けた。

 

それを知った和尚は、部屋から亡くなった妻が嫁入りの時に被った綿帽子を持ってきて、「少し古いが明日の満月の夜の婚礼に被りなさい」と言って渡した。

 

 

河童は和尚からの贈り物に感謝しながら寺を後にした。翌日の満月の夜、昨日の河童が綿帽子を被った娘を嫁ぎ先へ先導しているところを和尚は遠くから見守っていた。

 

翌朝、寺に河童の手紙とお礼の品が置いてあった。文字は汚いながらも、手紙には綿帽子のお礼と二度と悪さをしないと書かれていた。和尚は河童の詫び状を大切にしたが、時折読み返しては、あの満月の夜の河童の花嫁姿を思い出すのだった。

 

出典:日本昔話データベース