岐阜県の昔話

愛するお浪を竜に連れ去られた男の話

昔々、岐阜県柿野、西洞のミツボリ山には主が住むと云われていた。その麓の村に、お浪という大層美しい娘がいた。お浪は源三(げんざ)という村の若者を好いており、二人の仲は誰もがうらやむ程だった。

 

 

ある者は二人を「あんまり仲良うしとるとミツボリ山の主がやきもち焼くぞ。」などとからかったりした。二人は夫婦になる約束も交わしていた。

 

泊まり込みの山仕事が続き、帰って来た源三が久しぶりにお浪に会うと、お浪の顔はばかに青ざめていた。心配する源三に、お浪は突然暫くの間会わないで欲しいと言う。源三はそれ以来お浪に会えなかったが、お浪の両親は毎夜源三がお浪の部屋に来ていると思っていた。

 

 

ある晩とうとう源三はたまりかねてお浪のところへ行くと、障子に竜の姿が写った。源三は仰天して逃げ帰ると、布団を被って震えていた。翌朝になってお浪がいないと大騒ぎになり、源三を始め村人総出で捜し回った。道端に落ちているお浪の手ぬぐいや櫛を辿っていくと、いつしかミツボリ山に入り、大きな穴の脇にお浪の草履があるのが見付かった。

 

源三は必死にお浪の名を呼ぶが、穴の中からは水の流れる音に混じって、かすかに女のすすり泣く声が聞こえるばかりだった。三十五日後、お浪は源三の夢枕に現れると源三との思い出を胸に主の元で暮らすとだけ告げて消えてしまう。それから暫くミツボリ山の辺りをフヌケの様に歩き回る源三の姿が見られたが、それもいつしか消えてしまった。

 

やがてミツボリ山から中又洞にかけて、お浪の辿った道沿いに白い花が咲くようになり、誰言うとなく「お浪草」と呼ばれるようになった。

 

出典:日本昔話データベース