岐阜県の昔話

昔、飛騨の山奥の小さな村の外れに年老いた夫婦が住んでおりました。爺様は体を悪くして病気がちになり、ある冬とうとう亡くなってしまいました。

 

 

一人になった婆様はすっかり生きる張りをなくしてしまい、何日もただ座っているだけでした。吹雪のふくある朝、婆様は爺様のところへ行こうと墓の前で凍死するつもりで座りこみました。

 

その時、どこからか旅の坊様が現れて、一夜の宿を婆様に頼みました。婆様は死ぬつもりでしたが、困っている坊様を見ているうちに最後に人のお役に立ってから死のうと思い、坊様を家に案内しました。

 

 

婆様は僅かに残っているヒエを味噌に代えてもらおうと町へ出かけました。婆様は、行く道で「こんなバサバサの髪では追い返されてしまうかもしれない」と思い、近くにあった稲わらの中から芯を抜いて、「少しの間お借りします」と言って、藁で髪を結いました。夕方、味噌を交換して帰ってきた婆様は、「おおきにでした」と礼を言って、藁の芯を元に戻しました。

 

次の日、坊様は「長年連れ添った爺様を亡くされて、さぞお辛かろう。じゃが、天寿を全うすることが先に逝った者への何よりの供養になる。一本の藁にも礼を言う貴女だから、仏の加護がきっとある。生きなされ」と婆様を諭して、旅立っていきました。そして気が付くと、爺様のお墓に巾着袋(財布)が置いてありました。

 

婆様は、坊様の言ったとおりに天寿を全うしようと巾着のお金を大切に使い、生きて爺様のお墓を守り続けました。そして、巾着のお金は不思議なことにいくら使っても決して無くならなかったそうです。

 

出典:日本昔話データベース