岐阜県の昔話

失くした頭巾で乱暴者が改心する話

昔、飛騨の清見村三日町という所に源次という男が住んでいた。源次は人の物は自分の物という横暴な男で、そんな源次を村人達が怖がるのを見て、源次は益々捻くれ悪さのし放題となった。

 

 

ある日源次は、与平次が孫蔵と越中立山の地獄回りで留守なのをいい事に、与平次の家から薪をありったけ盗んだ。盗んだ薪を背負い山を下りかけた時、突然風も無いのに源次の頭巾が舞い上がり、頭巾は立山の方へ消えてしまった。

 

こ れを気味悪く思った源次は気を取り直し家に帰るが、家では何度も鬼の幻を見たりと、頭巾を失くしてから源次の身に妙な事が起こった。そして三日後、立山から帰ってきた与平次と孫蔵が珍しく源次の家を訪ねてきた。邪険にあしらう源次に対し、二人は立山で見た不思議な出来事を話した。

 

 

自分達が 地獄回りで焦熱地獄まで来た時の事、後ろから頭巾だけが浮いてやってくるが、よく見るとそれはなんと源次だった。しかし源次の様子がおかしく、声をかけても見向きもしない。そのまま源次は焦熱地獄の方へ歩いて行くので自分達が止めようとするも、源次は焦熱地獄へ真っ逆さまに落ちていったという。

 

その時拾った頭巾を二人が見せると、源次は驚いた。それはまさに源次が薪を盗み帰ろうとした時に失くした頭巾であり、頭巾は立山にいた二人の所まで飛んでいったのである。そして自分だけが地獄に落ちた事に、源次はいたく反省した。

 

源次は今まで神も仏も信じず悪事の限りを尽くしたのだが、それを二十数里も離れた立山様は全て見られており、自分の浅ましさを悔いた源次は、二度と盗みや乱暴を働くまいと心に決めた。

 

それからの源次はまるで生まれ変わったような善人になり、こうした源次の姿を村人達は初めは怪訝そうに見ていたが、やがて本当に源次が変わった事を知ると、村人達も源次を受け入れるようになったという。

 

出典:日本昔話データベース