岐阜県の昔話

尼さんの祈りで、柿の実に小さな耳が付くようになりました

昔、奥美濃あたりにとても貧しい村があり、加乃(かの)という女の子がいました。こんな山奥では、悪い風邪でも引けば医者も薬もなく、ただ死んでいくのを見ているだけでした。

 

喜びも楽しみもないこの村人たちの唯一の願いは、死んだあとの極楽往生でした。だから毎日の仕事が終わると、やさしい尼さんのいる比丘尼寺(びくにでら)へ集まり、極楽の話を聞き一時の心の安らぎを得ていました。

 

 

ある夜、尼さんが食べるおかゆをご馳走になった加乃は、この辺ではみかけない老人がお堂の前で熱心に拝んでいる姿を見かけました。不思議に思った加乃が老人の後をつけると、古い山柿の木のそばで見失ってしまいました。翌日、この話を聞いた尼さんが、お寺に現れた老人に声をかけると、どうやら耳が聞こえない様子でした。

 

気になった尼さんも、この老人の後を追って行くと、なんと老人は古い山柿の精でした。山柿の精が年をとり、み仏の導きを受けようとお寺に通って来ていたのでしょう。尼さんは、耳が聞こえない老人を哀れに思い「どうぞ山柿に耳を与えて下され」と、一心にみ仏に祈りました。

 

 

そうして時が過ぎて秋も深まった頃、山柿は沢山の実をつけ、実の全てに小さい耳が二つずつ付いていました。その夜、あの山柿の老人がお寺にやってきて、確かに耳が聞こえるらしく尼さんの話に何度も深くうなずいていました。尼さんはもう嬉しくてありがたくて、目に涙を浮かべて喜びました。

 

この秋以来、この山柿には小さな耳が付くようになり「耳柿」と呼ばれるようになりました。秋から冬にかけて小さな実がたくさんなって、甘い物に恵まれる事のないこの村の子供たちにとって、それはそれは楽しみな事になりました。

 

出典:日本昔話データベース