長野県の昔話

昔、信濃の有明山(ありあけやま)の麓に、夫婦仲のよい爺さんと婆さんがいた。二人は、これまで何不自由もなく平和に暮らしてきたが、子供がいないことが心残りだった。

 

 

 

それで二人は、仰ぎ見る有明山に「出来ることなら、子供を授けて下さい。」とお願いをしていた。そんなある晩、ふたりの夢枕に有明山の神が現れ「お前たちの住む里には、ネズミが穴を開けた石があるが、そこから泉が流れるであろう。朝に流れるのが(金銘水)夕方に流れるのが(銀銘水)じゃ。それぞれ1つ選び、1杯だけ飲むのだぞ、心してかかれよ。」と告げた。

 

二人は早速ねずみ石のある場所に向ったが、金銘水ではもったいないので、夕方の銀銘水を飲むことに決めた。夕方になって二人は、山の神の言う通り、手で掬って1杯だけ銀銘水を飲んだ。さて、翌朝二人が目覚めてみると、驚いたことに二人とも若返っていたのだ。そしてそれからしばらくして、若返った二人は子宝に恵まれた。これも銀銘水のおかげだと、二人はありがたがった。

 

 

その噂を聞きつけてやってきたのは、隣に住む夫婦仲が悪く、欲張りな爺さんと婆さんだった。詳しい話を聞き、翌朝欲張り爺さんは、「銀より、金の方がいいに決まっている。」と思い、金銘水をガブガブと飲んだ。寝坊した婆さんは「銀銘水でも結構。」と思い夕方、銀銘水をガブガブと飲んだ。しかし、夜になっても二人とも帰ってこないので、若返った夫婦がねずみ石まで行くと、欲張り婆さんの着物を着た赤ん坊が泣いていた。そしてその横には、欲張り爺さんが、ニコッとした顔で死んでいた。

 

あの時山の神は、正直夫婦の願いを聞き入れ金銘水は長生きの薬、銀銘水は若返りの薬としていたのだが、欲張り爺さんは、金銘水を飲みすぎたため、寿命がつき命を落としてしまい、婆さんは、銀銘水を飲みすぎて、若返りすぎて赤ん坊になってしまったのだった。若夫婦は、赤ん坊になった婆さんを神様からの授かりものとして、自分たちの子供と一緒に大事に育てたという。

 

出典:日本昔話データベース