長野県の昔話

あるところに、川を挟んで隣り合う村があった。村の間を流れる川は急流で、橋を架けることも渡ることもできなかった。

 

片方の村には一人の少女が、もう片方の村には同じ年ごろの少年が住んでいた。少女は花を摘んでは対岸の少年に「こっちに来たらこれやるで」と声をかけた。すると少年は、捕った魚をかがげては「こっちに来たらこれやるで」と返事をするのだった。少女は渡れない川を眺めて「あんたが来ておくれ」とつぶやいた。

 

 

二人が年頃になったある日、いつものように川を挟んで会った二人は、上流に虹の橋がかかるのを見た。それに向かって二人は走り、ついに川がもっとも細くなる場所を見つけた。男は急流の向こうから「この川に橋を架けよう」と女に言う。女も「あの虹のような橋を架けましょう」と誓う。

 

その日から、女は橋を架ける金を貯めるため、毎日雑炊だけを食する質素な生活をし、畑仕事に励んだ。年頃の女には縁談の話も数あったが、女は拒み毎日少しずつ金を貯めていった。対岸の村の男は、いつの間にか姿をみせなくなっていた。

 

女は何年も雑炊だけの貧しい生活を続けるうち、婚期も遠のいていった。村の庄屋がそんな女の生活を心配して、頼りない約束など諦めてどこかに嫁ぐよう説得したが、無駄だった。

 

そしてある日、対岸から男の声がした。家から走り出た女は、川の向こうで手を振る男の姿を見た。男は、橋を架ける技術を学ぶため、都に出ていたのだった。そして約束通り橋を架けるために戻ってきたのだった。

 

 

しばらく後、村と村の間に架かった真新しい橋を渡って、女は男のもとに嫁いだ。娘盛りを過ぎた花嫁姿だったが、村の人々はこれほど美しい花嫁は見たことがない、と噂しあった。この橋は雑炊橋と呼ばれたが、だんだんと縮まり、今では雑仕橋と呼ばれているそうだ。

 

出典:日本昔話データベース