長野県の昔話

昔ある所にものすごい大金持ちの長者がいて、その長者には、たまき(手巻)という大変美しい娘がいた。 たまきが年頃になるとあちこちから嫁に欲しいという声があったが長者は首を縦にふらなかった。

 

だがたまきはある時から一人の若者と一目を忍ぶようになっていた。その若者は夕暮れになると白馬岳の方からどこからともなくやって来るのだが、名前も住所も明かさなかった。やがてそのことが長者の耳に入り、長者は男と別れなければ人をやって男を成敗すると怒った。

 

 

そして次の夕暮れ、たまきは泣きながら若者に二度と会えなくなりましたと告げた。すると若者は突然姿を変え、見る間に怪物に変わった。逃げるたまきをつかまえ、その精気を吸い取ろうとした時、猟銃が火を吹いて怪物は倒れた。それは村の猟師が放った鉄砲だった。

 

 

娘を危うい所で助けられた長者はその猟師にたまきを嫁としてやることにした。そして祝言が挙げられている夜、突然障子が破られ、鉄砲で撃たれて死んだはずのあの怪物が巨大な姿になって入ってきた。そしてたまきをかかえ、黒雲に乗るとあっと言う間に白馬岳山頂目指して消えていった。

 

村人は朝までたまきを探したが、怪物もたまきも見つけることは出来なかった。夜が明けてみると、真っ白だったさくら草が真っ赤に染まっていた。飛び散ったたまきの血で染まったのだろうと言われている。

 

出典:日本昔話データベース