石川県の昔話

むかしむかし、加賀の国の山里に「イモほり籐五郎」と呼ばれるヤマイモ掘りの名人がおった。籐五郎はヤマイモを掘ってそれを米や食べ物と交換し、貧乏なその日暮らしをしておった。

                                

ある日、籐五郎がヤマイモ掘りに出かけている間に、美しい嫁御と嫁入り行列が、籐五郎の家にやって来たそうな。村人達は驚いて、籐五郎の家の周りは黒山の人だかりになった。

 

やがて夕方になり、籐五郎が帰って来た。驚く籐五郎に、嫁御は「大和の国、長谷村の長者の娘の“かずこ”です。」と名乗り、観音様のお告げにより籐五郎の所に嫁に来たと言うた。籐五郎は困ったが、仕方なくかずこを嫁にしたそうな。

 

 

ところが、その年は長雨が続き、籐五郎はヤマイモを掘りに行くことができず夫婦は暮らしに困ってしもうた。すると、かずこは嫁入り道具の中から小判を三枚出し、これを米と換えてくるように言って籐五郎に渡したそうな。じゃが、籐五郎は小判を見るのも初めて、それどころかお金というものがこの世にあることさえ知らんかったんじゃと。

 

小判の価値が分からなかった籐五郎は、小判三枚をたったザル一杯の米と交換して帰って来た。それを知ったかずこは、「私は馬鹿な人の所に嫁に来てしもうた。」と嘆いた。すると籐五郎は怒って、かずこに実家に帰るよう言い渡したそうじゃ。

 

 

かずこは実家に帰る前に、ふと気になって家の納屋に寄ってみた。納屋の中には籐五郎のイモ掘り用の籠があり、その中には土に混じって砂金が一杯詰まっておった。かずこは驚いて籐五郎を呼び、籐五郎がいつもヤマイモを掘っている山に連れて行ってもろうた。すると、その山からは砂金が一杯出てきたそうじゃ。

 

こうして籐五郎とかずこは大金持ちになって、何不自由ない暮らしができるようになった。じゃがその後も、籐五郎はあいかわらず毎日ヤマイモを掘って暮らしたそうじゃよ。

 

「出典:日本昔話データベース」