新潟県の昔話

大ケヤキの精が遊行上人のお札をもらって来る

昔、越後の国、南鐙坂(みなみあぶさか)の村外れに、百姓のおっとうとミヨと言う名の一人娘が住んでいた。

 

昔この場所には東光寺という寺が建っていたそうだが、今では廃れてしまい、ご神木の大きなケヤキの木だけを残すのみだった。そして信心深いミヨは、毎朝この家の前にある大ケヤキにお祈りしていた。

 

 

そんなある日、おっとうは、明日近くの十日町へミヨを連れて行くと言う。それは十日町の来迎寺に、遊行上人(ゆぎょうしょうにん)という偉いお坊さんが訪れるので、二人で上人の書いたお札をもらいに行くためだった。

 

十日町へ行くのを楽しみにしていたミヨだったが、いざ翌朝になってみると、おっとうが急に熱を出して床から起き上がれなくなってしまった。遊行上人は徳の高いお坊さんで、上人が書いたお札は難しい病気も直すと聞く。お札が欲しいのはやまやまだったが、このままおっとうをおいて十日町へは行けない。ミヨは苦しい胸の内を大ケヤキの前で話した。

 

 

するとどうしたことか、ミヨがおっとうのために沢の水を汲みに行った一時の間に、大ケヤキは忽然と家の前から姿を消していたのだ。

 

そして、ミヨの家の前から大ケヤキが消えたちょうどその時、城之古(たてのこし)の渡し場に不思議な婆さまが現れた。船頭はこの婆さまを乗せて向こう岸に渡そうとするが、婆さま一人しか乗っていないのに、舟はまるで岩でも載せたように重い。船頭はやっとの思いで舟を十日町の方へと渡した。この婆さま、すぐに遊行上人のお札をもらって帰って来たが、帰りに渡す時もやはり岩のように重い。

 

一方、ミヨの家ではそれからしばらくすると、なんと消えた大ケヤキがまた元通り立っている。そしてそれと同時に、おっとうの病気も嘘のように治ってしまった。家の戸口には、誰が持ってきたのか遊行上人のお札が貼られている。

 

ミヨは言う。「わかった!このお札はケヤキさまが頂いて来たんだ。」

この大ケヤキは、それからもおっとうとミヨの生活を見守り続けたということだ。

 

「出典:日本昔話データベース」