地獄の食堂も天国の食堂も満員だった。向かい合って座っているテーブル上には、美味しそうなご馳走がたくさん並んでいる。地獄の食堂も天国の食堂にも決まりがあった。それは、たいへん長い箸で食事をしなければならないということだった。

 

 

地獄の食堂では、みんなが一生懸命に食べようとするのだが、あまりにも箸が長いのでどうしても自分の口の中に食べものが入らない。食べたいのに食べられない。おまけに、長い箸の先が隣の人を突いてしまう。食堂のいたるところでケンカが起きていた。

 

 

天国の食堂では、みんなが穏やかな顔で食事を楽しんでいた。よく見ると、みんなが向かいの人の口へと食べ物を運んでいた。こっち側に座っている人が向こう側に座っている人に食べさせてあげ、こちら側に座っている人は向かい側の人から食べさせてもらっていた。

 

 

地獄の食堂には「自分のことしか考えない」人間が集まっている。ご馳走を巡っての争い事や奪い合いが絶えず、暴力がはびこっている。極論すれば、地獄の食堂の人間にとって他人は邪魔者であり、いなくなればいいと思っている。天国の食堂には「自分のことだけでなく他人のことも考える」人間が集まっている。奪い合う関係でなく、与え合う関係が成立しているので、秩序と平和が保たれている。また、地獄の食堂の人は「私は一人で生きている」と勘違いしている。一方、天国の食堂の人は「人間は一人では生きていけない」ことを知っている。私たちは無数の他者のおかげで生きていることを、もう一度考えて見たいですねというお話でした。

 

参考文献《物語は、「座右の寓話」(戸田智弘)を参考にしています。イラストは、インターネット上に掲載されているフリー画像を使用しています》