昔々のある国の話です。王様が、広い庭の一角に家臣を集め、酒宴を開きました。宴もたけなわというとき、大風が吹いて燭台の灯という灯が全部消え、真っ暗となりました。

闇に紛れ、家臣の一人が、王様の寵愛する王妃の裾を引き、抱き寄せました。

「あ、誰?やめてください!」

王妃は、真っ暗な中でも気丈に振るまい、男の冠を結ぶヒモをちぎり取りました。

そして、手探りで王様を探し出し、「王様、大変です。私に手を出そうとした者がいます。明かりがついたら、冠のヒモのちぎれている者を探し出してください。それが犯人です」と耳打ちしました。王様は大笑いをして「今夜は、無礼講だ。誰かが酔ってしでかしたことに違いない」というと、王妃は「いくら酔っているとはいえ、王様の寵愛を受ける私に手を出そうとするなんて‥こらしめてください」と言いました。

 

 

王様は「分かった、分かった。おまえの貞節は良くわかったから、楽しく飲もうではないか‥」と、王妃とやりとりした王様は、暗闇の中、すぐに側近に命じて、全員の冠のヒモをちぎり取らせてから、燭台に火をつけました。こうして真犯人は、うやむやとなりました。 

それから数年後…隣国と戦いになり、先陣を切って、命懸けの活躍をする家臣がいました。その家臣のお陰で、自軍の士気が上がり、相手を敗走させました。

戦いが終わり、労をねぎらうために、王様がその活躍した家臣に声を掛けました。「よくぞ、勇ましく戦ってくれた」。すると、その家臣はかしこまって「実は数年前の酒宴で、酔って無礼を働いたのを、王様に助けていただきました。いつか、恩返しをしたいと機会を待っていたので、命懸けで戦いました」と答えました。王様は「そなたであったか、これは、王妃にも礼をいわんとならんな」と、笑いました。

 

 

たんに金儲けだけが目的で仕事をすると、とかく破綻が生じます。しかし、「この人と一緒に仕事がしたい」と思えるような人物と一緒だと、仕事も楽しくなります。いわゆる人儲けと言われるものです。この寓話は、度量の広い王様のもとで、家臣が命を懸けて活躍するという、まさに人儲けの好例といえる話でした。

 

参考文献《物語は、大人のための「寓話」(廣川州伸)を参考にしています。イラストは、インターネット上に掲載されているフリー画像を使用しています》