ロバ引きがムチを手に、二頭のロバを連れていた。一頭はさっそうと歩き、もう一頭はムチで打たれながらノロノロと歩いていた。さっそうと歩いているロバが背負っていたのは、軽い海綿だった。ノロノロと歩いていたほうのロバが背負っていたのは塩だった。

 

 

山を越え、谷を越え、町を抜けると、やがて川にさしかかった。ロバ引きは海綿を積んだロバの背に乗りながら、塩を積んだロバを追い立てた。すると、その塩を積んだロバは川の深みにはまってしまった。

幸いロバはすぐに起き上がり、助かった。ただ、深みにはまったときに、背負っていた塩はすっかり水に溶けてなくなってしまった。

 

これを見ていた海綿運びのロバは、さっそく同僚の行動を見習おうと、同じように深みに飛び込んでいった。ところが、予想とは違って、背中の荷物は軽くなるどころかよりいっそう重くなり、ロバは水の中に沈み込んだ。海綿がたっぷりと水を吸い込んで重くなったからだ。おかげでロバまでが水の中に沈み込んでしまった。もはや一巻の終わりかと観念したとき、運よく人が通りかかり、やっとのことで命だけは助かることができた。

 

 

この話の教訓は「背負っているものはみんな違っているのだから、やみくもに他人の真似をしてはいけない」というものです。人間はみな「自分の物語」を持っています。生きることは「自分の物語」をつくっていくことになるのです。

 

参考文献《物語は、「座右の寓話」(戸田智弘)を参考にしました。イラストは、インターネット上に掲載されている無料画像を使用しています》