プラチナの暴落と円高のダブルパンチで、質店が苦境に立たされている。客から持ち込まれる貴金属や輸入ブランド品の価格が下がり、貸し付けの利息収入が減少、質流れした品物の販売価格も低迷しているためだ。「不況の時こそ出番」と思われがちな庶民向けの無尽だが、経済環境の激変に翻弄(ほんろう)されている。【山本太一】
「質屋は不況だともうかるでしょ」。1950年に創業した東海地方の質店店長は、そう聞かれるたび、ため息が出る。お金に困った人が駆け込むと勘違いされるが、実際は客が増えているわけでもなく、不況は「大打撃」だという。
これまで、持ち込まれた品物によっては鑑定額の9割という高値で引き取ることもあり、採算ぎりぎりの経営を続けてきた。それが店の信頼にもつながっていた。しかし、不況でものの値段が下がり始めると、状況が一変した。「質流れした品物が、持ち込まれた時に想定した価格では売れないケースが出てきた。今年は損失覚悟で売ることになりそうだ」。店長はそう嘆く。
全国質屋組合連合会(東京都千代田区)によると、質店に持ち込まれる品物の大半は、プラチナや金を使った時計や指輪などの貴金属製品と、バッグや財布などの高級輸入ブランド品だ。質店の経営は、地金や円相場の影響を受けやすい。
東京工業品取引所(東京都中央区)などによると、昨年夏に約7100円だったプラチナ1グラムの値段は、現在は2700円程度にまで下がった。不況の影響で自動車の排ガス浄化部品の触媒としての需要が低迷したためという。
金も同様に、1グラム3200円前後から、2500円前後まで落ち込み、貴金属の値が下がったところに、昨秋から急激な円高が進展。輸入ブランド品の価格下落を招き、質店の経営を圧迫している。10万円の値が付いていた指輪が5万円にしかならないようなケースもあるという。
品物の値が下がれば質入れに伴う貸出額が減り、利息収入も少なくなる。連合会副会長の下妻俊夫さん(61)が経営する静岡県伊東市の質店でも、昨年秋ごろから利息収入が減り始めた。「このまま景気が悪くなれば廃業する質屋もでてくるかもしれない」。下妻さんは危機感を募らせている。