小池真理子さんの小説「花の散りぎわ」を読んで驚いた。
文庫本で40ページほどの短篇。
刊行は2002年。
家庭を持つ中年女性の「恋愛」を描いている。
カッコ付の「恋愛」としたのはいわゆる恋愛の範疇からは外れると、
主人公の千景は思っているから。
相手の男性(士郎)にも家庭があり、
不倫と言われる関係だが、
千景は士郎に惚れているわけではない。
月に一度ほどの体の関係が三年間続いている。
この二人の関係を、
千景が士郎の家に会いに行くところから描き始めている。
驚いたのは、まず女性の心理表現。
48歳の女性の心が実に巧みに表現されている。
たとえば千景と士郎の会話。
二人の関係はセックスフレンドのような関係なのだが(>以下引用)、
>「いやになったら、ここにも来ないわよ。来る理由がないじゃないの。だってあなたはただの……」
>ただのセックスフレンドだから、と言おうとして、千景はそのことばをのみこんだ。
>口にしかけたそのことばは、思いがけず千景自身を傷つけた。
恋愛という関係ではないと思いながらも、
なにげなく言おうとしたことばに自身が傷ついてしまう。
この心理を男性が書くのは難しい。
そういう表現が随所に見られる。
ついで驚いたのが情景説明が簡潔にして的確で物語を補完していること。
士郎の家の近くに着いたときの表現。
>男の家が建つ路地が見えてきた。
>路地の入口に街灯があり、光が明るすぎる生で、路地の奥が闇に沈んで見える。
>玄関灯の明かりが黄色く闇に滲んでいる。
読むだけですぐその情景が浮かんでくるし、
これからおこることを暗示している。
さらに場面の描写から心理描写と過去の描写さらに現在へ、
そのつながりが流れるように巧みで読者を飽きさせないこと。
小説を書こうとしながら、
ぼく自身がよく小説を読んでいたのは1980年頃まで。
それ以降2011年まではほとんど小説を読んでいない。
だからその間に登場した作家の作品はほとんど知らない。
今回小池真理子さんの短篇を読んでこれが現在の小説なんだと、
あらためて驚いた。
過去にもぼくは女性作家の本をあまり読んではいなかった。
今回の驚きが小池真理子さんの小説だからか、
他の現代の女性作家にもこのように巧みな書き手がいるのか、
ぼくにはわからない。
でも、おそらくはこれからも驚かされる作品に出会うことだろうとは思っている。
とりあえずは十数冊買い込んだ小池真理子さんの小説を読んでいこうと思っている。
小説「花の散りぎわ」は短篇集『夜の寝覚め』(集英社文庫 2005年)に収録