社会派の韓国映画も好き。
『国家が破産する日』
チェ・グクヒ 監督
韓国の通貨危機を元にした、社会派映画。
『エクストリーム・ジョブ』との二本立てだったのだけれど、まあ落差が凄かった。
話自体は暗いのだけれど、三人の視点から描いており、そのうち一人だけ勝ち組がいるせいか、不思議なバランスで、観ていて息苦しくならないというのが面白い落としどころ。
さて、その勝ち組の金融コンサルト役として出てくる、ユ・アインさんの演技が凄くいい。
観始めてから、「どっかで観たことあるなぁ…」と思ったら、『バーニング 劇場版』の人だ!ってなりまして。
正直、『バーニング 劇場版』自体は、物語の構造が難しい映画で、村上春樹原作の話を現代韓国社会に落とし込もうとした試みは分かるのだけれど、うまいことハイブリッド、昇華には至らなかったなぁという印象。
(なんというか、社会派、エンタメ作品は基本ハズレないのだけれど、映像中心のロービートな作品となると、元来の真面目さが邪魔をするのか、しこりが残るというのが韓国映画の不思議なところ。)
ただ、その中で彼の演技は凄みのある表情で、彼の演技を追うために観ること自体に価値があると言ってもいいくらいの映画だと思う。
正直、イケメンではないし、一見凡庸そのものの顔つきなのだけれど、不思議と顔と名前が一致する色気みたいなものを持っているのが面白い。
(ちょうど、加瀬亮さんとか、草彅剛さんみたいな俳優だ。)
一にも二にも、表情が良い。
喜んでるのに悲しい、という表情をきちんと理論立てて表せる面白さがある。
今回の彼の見どころの一つに、自身の予想が当たった結果、独立した自分は大金を手に入れる一方で、古巣の会社に寄ってみるとパニック状態に陥っているというシーンがある。
ここで自分の顧客の一人が調子に乗って、騒ぎ出すのだけれど、そいつを容赦なく殴る。
そこで見せる、「自分の予想が的中した喜びを噛み締める」一方で、「予想が当たってしまうほどわかりやすくダメになっている政府への失望と悲しみ」が、絶妙に表情に滲み出ている。
そしてこの、相反する二つの感情で揺れる彼の成功を描くことで、韓国社会の弱点みたいなものをメタ的に示せていると思う。
そして、そこに社会派の韓国映画の面白さの本質があると思う。
一つの事件に於いて現れる、主人公に湧き出てくる相反する二つの感情の描写。
残り二人の描写にもこのことは言える。
特に、町工場の社長のラストにおける変容をどうみるか。
細かい表情のなかに浮かび上がる、社会によって変わる個人の弱さ、もしくは強さを、きっちり描き出す映画になっている。