フェースブックで知人に教えてもらった、いいお話です。
この原稿、何度読んでも泣けます。
長文ですが、是非、ご一読下さい。
ウェディングストーリー
大切な人に会いたくなる結婚式の物語1
「優しい記憶」
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「幸せになれよ」
こんな何でもない一言なのに、うまく伝えることができないお父さまも少なくありません。娘に伝えたいことがあるのにもかかわらず、恥ずかしくて言葉にできない。
母と娘の間柄以上に、父と娘の間には言葉で伝える上での距離があるのかもしれません。
バージンロードで新郎にバトンタッチする時、自分の腕から娘の手が離れ、新郎のもとへと一歩踏み出した娘を目で追うお父さまの後ろ姿には毎回切なくなるものです。
お父さまの手を離れる瞬間、一言でもいいから「ありがとう」、そう言葉で伝えてあげて欲しい、そんな風に思ったりします。
けれども、言葉にしなくても伝わる想いもある、そしてそれを言葉にした時に起きる奇跡があることを実感した結婚式がありました
このカップルは、ハワイで挙式をされており、披露宴を改めて日本でされる予定でした。
ですから、打合せの段階で私もハワイ挙式の様子をビデオで見せていただくことができました。
とても美しい新婦でしたが、最も印象に残ったのがお父さまの表情でした。
新婦ご自身、
「一番感動したのは父とバージンロードを歩いた時です」
そう繰り返しおっしゃっていて、仲がいい父娘であることが伝わってきました。
けれども、お父さまとは挙式の前日もゆっくりお話しすることができなかったとのことでした。
バージンロードを歩くお父さまは涙をこらえているようなお顔をされていました。
娘に伝えたい想いが溢れるほどあるのにもかかわらず、伝えることができないのではないかと感じられました。
そのお父さまの表情が頭に残り、挙式では伝えられなかった想いを披露宴の中で新婦へ伝える時間をおつくりできないか、と思いました。
「いらないよ。言葉で言わなくても伝わっているだろうから」
お父さま世代ですと、そんな風に恥ずかしがられる方がほとんどです。
もしかしたらお断りされるかもしれない、と思いながら、新郎から新婦のお父さまに「嫁ぐ娘へ伝えたい想い」を率直にお手紙に書いていただけないか、と頼んでくださるよう、お願いをしました。
新郎もなかなかタイミングをつかめずに、1ヵ月ほどしてようやくお父さまにご連絡することができたそうです。
「お義父さんから彼女へ伝えたい想いをお手紙に書いてもらえませんか?」
すると、お父さまは、
「娘に伝えたい想いか……」
と少し考え、
「伝えたいことがありすぎて……うまくまとまるかな」
と、照れくさそうにおっしゃり、それでも前向きにお手紙を書いてくださることになったのでした。
そして披露宴当日。
お手紙を本当に書いてきてくださったかが気になり、お父さまのもとへご挨拶に伺いました。
「お父さま。お手紙……書いてきていただけましたか?」
そう、お訊ねすると、
「ああ、何とか……」
と、恥ずかしそうにおっしゃって、胸ポケットから取り出されたのはくしゃくしゃになったお手紙でした。
きっと何度も書き直し、何度も読み返したのでしょう。
そのくしゃくしゃになったお手紙を見て、私は思わず胸が熱くなりました。
綺麗な封筒に入れてある清書のお手紙もご用意されており、くしゃくしゃのものはご自身が読み返して練習するためのものでした。
ですが、私はそのくしゃくしゃのお手紙にこそ新婦へのわきあがる愛情が込められているように思い、
「もしよろしければ清書の方ではなく、こちらを読まれてはいかがですか」
とご提案しました。
実際に読む時にはその書き直した跡はお客さまからは見えません。
けれども、お父さまの想いが詰まったそのお手紙で読むことに意味があるように感じたのです。
披露宴は終盤を迎えました。
「ここで、新婦から感謝のお気持ちを込めてご両親へお手紙を……とご紹介したいところですが、その前に……」
お父さまにスポットライトが当たります。
通常であれば、花嫁からのお手紙の時間。
お父さまがいそいそとお手紙を取り出すと、会場は笑いに包まれました。
ですが、お父さまがお手紙を取り読み始めると、会場は水を打ったかのように静まりかえりました。
「君の命を授かったとわかった時、嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした」
「幼い頃はおてんばだった君、怪我をしないか毎日気が気ではありませんでした」
幼少時代の思い出話を語るお父さまの口調は優しく、新婦への愛がにじみ出ていました。
そして、お父さまは続けてこんなエピソードをお話しになったのです。
「君は小学生の頃、学校でいじめにあっていましたね。
毎日泣きながら帰ってくる君。
学校に行きたくないと駄々をこねる君。
けれども、甘やかしてはいけないと厳しく叱ってしまったこともありました。
君はいつも泣きながら布団に入っていましたね。
けれど、君が眠りについた後、
君の寝顔を眺めながら、
この子だけは何があっても守りぬかなくては、
どんなことがあっても自分は絶対にこの子の味方でいようと、
君の涙の跡が残るほっぺを撫でながら毎晩のように心の中で語りかけていました」
新婦の大きな瞳から涙がこぼれ落ちました。
そして、その理由はすぐに明らかになったのです。
今度は新婦からお父さまへのお手紙の番です。
「私は小学生の頃、学校でいじめにあっていました。
辛くて辛くて、学校に行きたくなくて、
そうお父さんに伝えると厳しく怒られたこともありました。
本当に悲しくて毎日泣きながらお布団に入りました」
「あ、お父さんの話と同じ……」
会場は驚いたような空気に包まれました。
「でも、毎日泣きながら私がお布団に入ってしばらく経つと
お父さんはいつもそーっと襖をあけて、私のお布団の横に寝転がって、
しばらく私の顔をじっと見ていました。
そして必ず私のほっぺを何度も撫でてくれましたね。
そのお父さんの手があったかくて優しくて……。
とても安心しました。
お父さんのいろいろな想いが伝わってきて、
明日も頑張ろうと思えました」
そして、新婦は顔を上げて、お父さまの方をまっすぐに見て続けました。
「お父さん。お父さんはきっと今日まで私がすっかり寝ていると思っていたかもしれないけど、本当は私、毎晩起きていたんだ。お父さん……あの時はありがとう」
そう言うと、新婦は涙を堪えながらにっこりお父さまに笑いかけました。
その瞬間、お父さまは顔を覆って涙されたのでした。
数十年ぶりに魔法が解けたかのように明かされた、父と娘の優しい時間の記憶。
幼い娘の頬を撫でて優しく心の中で語り掛けるお父さまと、寝たふりをしながらそんなお父さまの気持ちを嬉しく感じている幼い頃の新婦の姿が 鮮明に浮かんできて、私も会場の隅で涙が止まりませんでした。
お互いを想い合う父娘の愛情は確かに通じ合っていたのだと。
会場のゲストたちもこの父娘の温かいやりとりに誰もが涙を浮かべ、力の限りの拍手はいつまでも鳴りやみませんでした。
結婚式が終わった後、新婦に訊ねました。
「お父さまのエピソードと新婦さまのエピソードが重なった瞬間、鳥肌が立つほどびっくりしました。あれはお父さまのお話を聞かれて急きょ話されたのですか?」
「いえ、違うんです。父との思い出を手紙に書こうとした時に、まず思い出したのがあのほっぺを毎晩撫でてくれていたことでした。ずっと感謝していて、いつかありがとうと言いたかったんです。だから一番伝えたいこととして手紙に書きました。まさか父も覚えていてくれたなんて……」
同じことをお互いに思い出すことができたことは奇跡のようで嬉しいと笑顔でおっしゃっていました。
その後、新婦は新しい暮らしを始められました。
新居のリビングに額に入れて大切に飾られているのは美しい絵でもなければ高名な書でもなく、あのお父さまの手紙だそうです。
後日談があります。
このエピソードを私のブログに書いたところ、500件近いコメントが寄せられました。
「来月花嫁になる娘を持つ父です。私も娘に手紙を書くことを決めました」
「新米パパです。1歳半になる寝ている娘のほっぺを今ちょっと撫でてみました。僕もこんな父親になれるかな」
すでにお父さまを亡くされている女性からは、こんな書き込みがありました。
「私も小学生の時にいじめにあっていました。もしかしたら私の父も寝ている時に語りかけてくれていたかもしれませんね。今になってはもうわからないけれど、そう信じます」
派手な話でも、ドラマチックな話でもありません。
けれども、この父娘の愛に共感し、涙を流す人がこれだけたくさんいる。
日本人の心の温かさに改めて心を打たれました。