30代の頃
スーパーに行き
私と同世代の人が
その母親と品物を吟味しながら
買い物をしているのを見ると
とても切なくなった
私はずっと
その光景にとても憧れていたから
会計の時に
お母さんが払ってあげたりしていて
本当に羨ましかった
父が亡くなる2日前
ほとんど病院に詰め切りだった私に
裁判所から通知が届く
そこに記載されていたのは
父と母が住む家の家賃滞納による
差押え通告だった
連帯保証人だった
私のところに裁判所出頭命令が
出されていて
頭の中が真っ白になった
父が危篤というのに
その頃母と連絡が
なかなかつかず
私達はこれからどうなるのか
混乱の中にいた時のこと
とりあえず今は父の容態が
最優先と病院に戻り
全て隠して父を看取った
亡くなる直前に病院に現れた母は
なんとかその最期を
共に迎えれたけれど
父を病院から葬儀場に運ぶ
その車の中で
裁判所からの通告のこと
葬儀代のことを相談しようと
生命保険金について聞く私に
母が告げたのは
保険料の支払いをしていなくて
つい先月失効しているという
声も出なくなるような話だった
母はヤミ金の取立てから逃れる為に
家に帰れず
通知を受け取ることができず
失効してしまった事に
気づかなかったという
亡くなる直前に不在であったのは
母なりに生命保険会社と
交渉する為に走り回っていたせいと
説明されても
今更どうしようもない
わずか数万円の支払いが滞ったせいで
父の命と引き換えにした
数百万の唯一の財産を
私達は失い
残ったのは
半年以上の家賃滞納分と
葬儀代の支払いと
いったいいくらあるのかわからない
ヤミ金やら信販会社の借金だった
それから数日間のことは
今はもうぼんやりとした記憶しか
残っていない
あれほど辛く苦しかった事はない
父を乗せて葬儀場へ向かうところから
記憶が途切れ
時間も止まってしまったようだった
どうすればいいのか
妹達と相談しながらも
答えなどでるわけもない
葬儀が済み
裁判所へ出頭し
支払いさえすれば和解できる事になり
その分を私が借金をして払った
妹達も
それ以前に相当な金額を母の為に
融通していたし
葬儀代も分担してくれていた
その後
弁護士さんに相談して
信販会社分は債務整理をし
ヤミ金には毅然とした態度で
決して払わないようにと
言われたけれど
嫌がらせは延々と続く
警察にも相談してみたが
民事不介入で何の手だてもなかった
結局
借金までして家賃を払ったのに
半年も経たないうちに
母はまた滞納して
家は強制退去の処分が下された
その部屋には
思い出の品がたくさん置いてあった
私がとりあえず保管していた
過去の手紙や集めていたレコード
妹も私も着た幼い頃の着物や
父の遺品も整理されずに
置いてあった
なぜなら私達の誰もが
ヤミ金を怖れてその部屋に
近づく事が出来なかったから
いよいよ明日は
強制退去が執行されるという夜
私と末の妹は
その家に入る決意をする
(…続く)
