ライター時代、煮詰まると読み返していた本があります。
コピーライターの方が書かれた本ですが、人の言葉を伝えるとは、なんぞや。
ついつい忘れがちになる初心を思い出させてくれる本です。
34本の名コピーを紐解いていく本書。
「死ぬのが恐いから飼わないなんて、言わないで欲しい」
こんな強烈なキャッチで始まるのは、実はペットフードの広告。
けなげなペットの描写が目に浮かび毎回読む度
溺愛していたペットのことを思い出し、うるっとさせられます。
アシックスの企業広告は、
創業者の靴作りに懸ける思いと波乱の生涯をギュッと凝縮させた
読み応え十分のノンフィクション。
ほかにも広告がこんなに心に訴えるものなのかと目からウロコの作品が並びます。
でも、何より私の心を掴んだのは、これらを紹介する著者にあります。
著者の鈴木康之さんはこの道50年、受賞歴も多々の重鎮コピーライター。
当然、自身の作品だけで本を書くことも充分可能だったはずです。
しかし本書に掲載したのは1本のみ。
鈴木さんは本書の中で、こう言ってます。
「自ら名作と言うのは不遜でしょ」
決して自分を前面に出さない。
文章は書き手ではなく読み手のものと何度も訴える著者のスタンスが
全編ににじみ出ています。
自分の職分は、あくまで黒子に徹すること。
コピーはクリエイティブでではなく、紹介したい物や事、人の意を汲み、
それを最良の方法で伝えるに過ぎないと。
私も「ライターたるもの、黒子であれ」をモットーに仕事をしていました。
でも、ついつい欲が出てきてしまうんですよね。
「もっと話を聞き出したい!」「もっと面白い文章にしたい!」って。
もちろん、それは上達していく上で大切なことではありますが、
あまりにそこに執着すると
いかに「自分が」聞き出すか、
いかに「自分の」文章で引きつけるかと
知らず知らずのうち、自己満足に走ってしまうきらいがあります。
私が悶々としだすのは、大抵そんな状態の時でした。
そんな時、落語家の桂文楽さんの言葉を用いた
鈴木さんの言葉がずしんと響きます。
「自分はいい話を『お取り次ぐ』だけ」
ライティング、インタビューのスキルを上げたいと思っている方は
ぜひぜひ読んでみてください。
いわゆる主語と述語が云々という実践的な文法指南書ではありません。
でも、そこかしこに伝えることの本質が散りばめられている。
押しつけがましくなく、嫌みっぽくなく。
その巧みな言葉運びには脱帽です。
ぜひぜひ、そのセンスを感じ取ってみてください。







