子供の頃の、床屋での思い出は色々ありますが、とりわけ冬の夕暮れのそれは印象の深いものがあります。
髪の毛をカットしてもらい、洗髪も済ませ、そして仕上げに整髪料と床屋には実に様々香りが立ち込めます。シャンプーひとつ取っても家庭のそれとはどこか異なり、ちょっと愉悦感に浸れるところがあります。特に仕上げの整髪料にいたっては子供ながら、ちょっぴり大人になったような気がして、どこか気恥ずかしささえ感じてしまったものです。
仕上げが終わると、体全体に掛けられていたシーツが取り除かれ、シャッシャッと肩や首周り、膝周りを小さなブラシで髪の毛を払ってもらう時など、スゴク偉くなった気さえします。
料金を支払い、店の扉を開い時、冬の冷たく乾いた風がスーッと首元を通り抜け、思わずヒヤッと首を竦めてしまいます。そして、辺りはすっかり暗くなり始め、西の空にはオレンジ色の太陽がその日の勤めを終え、これから朝を迎える国を照らしに行くのが見えます。
そんな光景に少しばかり寂しさを覚えつつも、匂ってくるのがシャンプーや整髪料が混ざった何とも言えない香りなのです。
寒さに首を竦めながらも、ふわっと漂う香りを楽しみながらの家路は中々楽しいものでした。