1946年。 松竹。
 溝口健二監督。
田中絹代、坂東蓑助、坂東好太郎、川崎弘子、その他出演。

 江戸の天才浮世絵師、喜多川歌麿の周辺にいた女性たちの悲劇を描いた作品。
日本が敗戦直後ということもあり、当初はオールスター・キャストで企画されたらしいが、俳優の消息もはっきりしない、という混乱した状況で製作されたらしい。
 溝口健二の作品の中では、大して話題になることもなく、どうでもいい中途半端な作品、とされているらしい。
昨年まとめてDVD発売されたものの1本で、全部買うと8万円超えてしまう、というので、あきらめていたら、某レンタル店が一部を除いた作品を大量に入荷してくれたおかげで、見ることができた。

 見た直後の感想は、代表作といわれる作品と比較すると、多少は見劣りするかもしれないが、代表作があまりにもすごすぎる(と言っても全部を見たわけではない)ので、相対的に低く見られているが、これはこれで大傑作に違いない、素晴らしい映画だった。

 こんな素晴らしいものを見てしまうと、最近の映画を見る気がしなくなってしまう、という問題が発生するが、同じ時期を題材にした『さくらん』 を思い出したが、あれはあれで、まあよかった。
 60年以上前の作品となると、外国映画を見るような感覚になってしまい、登場人物の、封建社会で生きながら、けなげに生きようとして、むごたらしい結末を迎える悲劇が、案外あっさりと描かれていて、
 人物の感情の動きや描き方は、今では見ることない微妙な揺れが細かく描写されており、別の国の映画を見ているような感覚におちいる。
 ワンシーンが長く、移動撮影などを使って、カット数は出来る限り少なくしてある。アップもほとんどなく、バスト・ショットさえめったにないので、人物の貌がよく見えない。常に複数の人物がフレーム内におり、動き続けている。
 画質がいまひとつ良くないのが残念だった。
uta5
 五人の女、田中絹代、川崎弘子、飯塚敏子、草島競子、大原英子。
90分くらいの短い作品なので、田中絹代以外は、あまり印象に残らない。
uta4
歌麿(坂東蓑助)は、女性たちと恋愛関係になるのではなく、ひたすら絵を描くことにとりつかれている人物で、
 彼がモデルにした女性や、なじみの芸者たちの恋模様が歌麿の周囲で起こるのを、観察し、あるときは手助けしてやったりする役回りを演じる。
uta3
もっとも強烈なエピソードは、美しい女郎と駆け落ちした銀座の若旦那を追いかけ、ふたりを刺し殺してしまった難波屋のおきた(田中絹代)の物語だった。死罪を覚悟して、歌麿に別れのあいさつをしに来るシーンが映画のクライマックスになっている。
uta1
歌麿に別れを告げるおきた。
 田中絹代が気が強いように見えて、恋に命をささげた女の悲しみを熱演する。

高い身分を捨てて歌麿の弟子になった勢之助(坂東好太郎)と、彼を追いかけて、同じく身分の高い安定した暮らしを捨て、勢之助を追いかけてきた雪江(大原英子)の残酷すぎるエピソードも哀れを誘う。
松竹
歌麿をめぐる五人の女
四方田 犬彦
映画監督溝口健二
蓮實 重彦, 山根 貞男
国際シンポジウム溝口健二没後50年