【原題】CRASH
【監督】ポール・ハギス
【主演】サンドラ・ブロック、ドン・チードル、マット・ディロン
【オフィシャルサイト】http://www.crash-movie.jp/
本年度アカデミー作品・脚本・編集賞受賞作。
その栄誉にふさわしい、自由の国アメリカに潜む暗部と人間の明と闇を描き出す名作。
クリスマスも近い夜のロサンゼルス。
黒人刑事グラハムはハイウェイで追突事故に巻き込まれてしまう。
偶然その路肩では、殺人事件の捜査が行われていた。
その前日。ペルシア人雑貨店経営者ファハドは度重なる強盗に業を煮やし、
銃を買い求めるが、店主にアラブ系というだけで販売を拒否されてしまう。
地方検事のリックとジーンは、路上でアンソニーとピーターの黒人2人組に
車を強奪されてしまう。怒り狂うジーンは、玄関の鍵の交換にきたダニエルにも
当たってしまう。
ダニエルが傷心を抱えて自宅に戻ると、1人娘がベッドの下で怯えていた。
銃声が怖いのだという。彼は娘に物語を聞かせ、お守りを渡す。
人種差別者の警察官ライアンは同僚のハンセンと共にパトロール中に、
TVディレクター・キャメロンとクリスティンの黒人夫婦に遭遇する。
因縁をつけられ侮辱を受けたクリスティンは、何もしなかった夫に怒りをぶつける。
白人の地方検事とその妻、黒人刑事とその恋人、アラブ系の雑貨店主とその娘、
鍵屋とその家族、人種差別者の警察官と正義感の強いその同僚、黒人であることを
自嘲しひねくれている2人組、裕福なTVディレクターとその妻。
様々な人種と様々な境遇の人間たちが互いに絡み合い、反発し合い、傷つけあっていく-。
一見それぞれ独立したオムニバス形式の話の積み重ねが、いつしかそれぞれ関係していく。
多民族国家アメリカならではの日頃表に出てこないが根強く残る人種差別問題に、
生きていくことの切なさと辛さと悲しみ、そしてほんの少しの喜びと楽しみを織り交ぜることにより、
オムニバスで多層化された分だけ強く激しく胸に迫ってくる。
『ショートカッツ』ほど不条理でもなく『ラブ・アクチュアリー』ほど幸せな気分にもなれない。
重いテーマを重く強くストレートに描き出すことによりそれぞれの人物の人間性が浮き彫りにされ、
時には相反した行動に悩み、大事なものを失い、大切なものに気付く。そして少し微笑む。
そのほんの少しの微笑がそれまでの悲しみを時には倍増させ、時には半分にする。
毎日って本当はそんなものなんだろう。人生とはその繰り返しなのだろう。
生きることは辛い。だがタマに幸せに思えることがあるから生きていける。
そんな当たり前のことを思い起こさせてくれて、久々に見てよかったと思った紛れもない名作。
こんな作品がオスカーを手にできるなら、まだアメリカの映画も捨てたもんではない。
【評価】★★★★★