FRIED DRAGON FISH | にゃ~・しねま・ぱらだいす

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ドコにもダレにも媚を売らずに、劇場・DVDなどで鑑賞した映画の勝手な私評を。

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FRIED DRAGON FISH

【監督】岩井俊二
【主演】浅野忠信、芳本美代子

映画ではなく、当時CX系の深夜番組として放送された短編。
個人的には岩井俊二監督の最高傑作というだけでなく、自分の運命を変えた1本。

場末の探偵事務所に、お試し期間ということで情報サービス会社の女性が訪れる。
赤いべスパにショートカット、行動的だが派手な身なり。一目見て信用は出来ない。
早速今抱えている案件の情報をインプットするが、それはトップシークレット扱いの極秘情報。
ドラゴンフィッシュのスーパーレッド。それが依頼主の探している熱帯魚の珍種。
一見お気楽なペット探しの裏に、黒社会の陰謀と暗躍が隠されていた-。

十余年前のある日。
助監督だった女性が自主映画の構想に悩む自分の前に、1本のビデオテープを持ってきた。
それがこの作品だった。深夜のドラマで放映していたものをチェックしたらしい。
衝撃だった。
撮影手法、絵作り、編集、全てがそれまでの邦画の枠を超越していた。
その後、私は彼-岩井俊二を追いかけた。そう現場まで。
広告代理店を辞め、映画の世界に飛び込むきっかけになった作品だった。

話す機会はなかったが、現場で遠くから眺めた彼は普通の映画監督だった。
特別カリスマ性や才能を感じるオーラも放っていなかった。
もう、その時彼は日本の映画に絶望していたのだろうと思う。
人間1人でやれることは限られている。
しかし、規模が大きくなれば自分の意志は末端まで届かない。
その無力さを殺伐とした映画現場で、彼は実感していたのかもしれなかった。

ご存知の通り、彼は何年も本編を手掛けていない。
小説や映像作家として、たまに名前が出るだけである。
ひょっとしたら、もう映画監督として劇場公開作品が世に出ることはないのかもしれない。
それでも、『今、日本で一番優れている映画監督は?』と聞かれたら、
躊躇なく『岩井俊二』と答えてしまう自分がいることは間違いない。


【評価】
★★★★★