ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌- | Sound@Cinema

Sound@Cinema

))) Cinema Sound Works シャチョーの日々 (((
映画の音響技術評価などをプロ目線で、車系もたまにw
http://www.csw.jp/

 

 

アメリカの無名の弁護士が回想録として書いた

”ヒルビリー・エレジー”がロン・ハワードによって

映像化され、NETFLIXによって公開された。

 

”ヒルビリー”とは”南部の山岳地帯で育った”

田舎者という蔑視表現である。

 

要するにアメリカ国内で繁栄から取り残された

スコッツ=アイリッシュ家計派生の労働者階級

の悲哀を描いた内容という事らしい。

 

トランプ政権下に於いて貧富の差が顕著になり

この1編の実録回想録が着目されベストセラー

のTop10に常に名を連ねている事から、映像化

に着手という流れかと思われる。

 

 

 

 

ロン・ハワード口説きに口説き落としてエイミー・アダムス

を主演に据えた。おそらく体重を増加させて臨んだに

違い無い、見事にだらしなく太って見えるのは流石役者魂。

髪の毛もボッサボサで生活苦を完全に体現。

 

原作は未読なんだが、書評に目を通すと人々の悲痛な

怒り、内側にこもったエネルギー、米社会の断絶と格差、

といったものがものの見事に浮彫になっており、多くの

人から共感を得たらしいが、映像評は余りよろしくなかった。

 

何故なんだろうか?

 

そこに着目してどっしりと構えて鑑賞開始。

 

親子3世代に渡る苦難の歴史を描いた完全なる家族

の話。ロースクールに通いつつ将来の就職を見据え

インターンシップに臨む息子のJDと過去のいきさつを

シーンバックしながら祖母と母が何故こんなに荒んだ?

のか、そしてどうやってJDは此処から抜け出したのか?

かが交互に進行していく。

 

しかし、抜きんでてるのはエイミーの豹変し荒れまくる

母親の狂気振りが本当に物凄く、他を凌駕してしまって

いる。そして何故彼女がそうなってしまったのか?の

描写が少な過ぎてただの暴走母さんに見えてしまう。

 

此処か、、、

 

最後はハリウッド製作、ロン・ハワードらしくうまい事

丸め込んで清々しくエンドを迎える。時折目頭に熱い

物が込み上げて来そうにはなるんだが、切れ切れの

エイミー母さんの暴力に反証するほどの”優しさ”が

弱くてバランスがとてつも無く悪く、良い場面で中々

グッと来ないはそういうことかも。

 

 

 

 

やはりキーは祖母役のグレン・クローズの過去と

母親のエイミーとの間にあったしがらみの根幹が

中途半端過ぎて、”原因”が見えない事かな。

 

多分その原因って奴は、そもそもこの地方に住む

炭鉱労働者だった人達の歴史を絡めた、もっと根深い

点に起因し差別が生まれた所に着地していくんだと

思うんだが、2時間尺でまとめる為に割愛したのが、

肌でこれを良く感じ取って知っている人達から、辛目

の評価を頂戴したんだろう。

 

外国人の我々から見ても、なんでエイミー母さんは

何故こんなに切れるんだろう?って腑に落ちない箇所が

散見したので、もうひとつ深い所まで抉って欲しかったかな、、、

 

しかし、各々の役者の芝居は凄いですよ。

これは折り紙付きです。

 

これらをどう紡いだのかが問題なんでしょうかね。

 

ロン・ハワードは後一歩のところで大傑作にし損ねました。