フランス女優概論　試論その1

今日から、フランス現代女優を取り上げます。

昨今の日本では、欧米映画はアメリカ一極集中になっており、大変偏っているうえに、当ブログの趣旨である女優のエレガンスという点では、現代アメリカ映画の女優はあまり観るべきものがありません。

（それは、ハリウッド黄金期があまりにも偉大だった反動かもしれません。1960年代からのアメリカの女優は、個々には魅力的なのにもかかわらず、露悪的だったりヌードや性的なシーンが多かったり、正視に耐えないひどい撮影にさらされてきました。）

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一方フランス映画は、豊かな女優の系譜が複数あります。

第1の系譜として、ダニエル・ダリューやミシェル・モルガンあたりからアヌーク・エーメ、ドヌーヴに至る、映画黄金期の貴婦人や淑女の美の伝統があります。

ドヌーヴにおいてモードとの最も幸福な融合があり、撮影監督に恵まれたイザベル・アジャーニ、エマニュエル・べアールで最高の映像美を達成しました。

モードをまとった女優としては、その後はアンナ・ムグラリス、オドレイ・トトゥ、レア・セドゥ、ノエミ・メルランあたりまで、変則的ながら受けつがれています。

第2の系譜としては、ジャンヌ・モローからの独立した女性を体現する女優の流れです。

演劇的な素養を豊かに培った知的で、リアリティを重視した一連の女優達がいます。

フランス国立演劇学校 (コンセルヴァトワール)出身のアニー・ジラルド、サビーヌ・アゼマ、マリー＝クリスティーヌ・バロー、ナタリー・バイ、フランソワーズ・ドルレアック、そしてイザベル・ユペール。

演劇学校出身ではないですが、ニューヨークとパリで演劇を学んだデルフィーヌ・セイリグ、グランゼコール出身のファニー・アルダンも入るでしょう。

アカデミー賞主演女優賞を獲得したマリオン・コティヤールは、オルレアンの演劇学校を首席で卒業しています。

（ところで、両方の流れは、完全に分離していたわけではなく、いずれも女優も二面性がありました。
ドヌーヴは、後期になればなるほど、自由で政治的な女性像を標榜しましたし、イザベル・ユペールも、グレタ・ガルボやディートリッヒからの影響を隠していません。）

そして、第3の系譜として、ブリジット・バルドーから始まる、反＝淑女・反＝貴婦人のモダンガールの系譜があります。

それは、イタリアのソフィア・ローレン、クラウディア・カルディナーレの登場とも軌を一にしており、1960年代には北欧女優アンナ・カリーナとともに、一世を風靡しました。

他にも、ミレーヌ・ドモンジョ、ベルナデット・ラフォンなども入るでしょう。

なお、ジャクリーヌ・ササール、カトリーヌ・スパークは、活躍の場はイタリア映画でしたが、そうしたモダンガールそのものでした。

イギリス女優ながらフランスで活躍したジェーン・バーキンや、ヴァネッサ・パラディ、レア・セドゥ（ジャクリーヌ・ササールも）というすきっ歯の女優もそうした系譜かもしれません。

そうした3つの流れを汲んだようにして、ジュリエット・ビノシュが、1980年代以降のフランス映画界で圧倒的な存在感を持ちました。

美貌は言うまでもなく、フランス国立高等演劇学校（コンセルヴァトワール）出身であり、バレエの素養もあり、レオス・カラックスや多くの才能ある監督たちと、映画＝人生を生きる女優でした。
セザール賞のみならず、カンヌ映画祭、ベルリン映画祭、ヴェネツィア映画祭の最優秀主演女優賞を獲得し、アカデミー賞助演女優賞まで獲得したフランスの女優は他にはいません。

さて、ビノシュの圧倒的な存在感のあとであっても、フランス女優は、アメリカ映画に比べれば、相対的に厚い層を持ち、いまも私たちを魅了します。

ビノシュ以降として、以下の女優からセレクトして取り上げたいと思います：