佐藤正午の原作小説をタカハタ秀太監督で映画化。
舞台は富山県。津田伸一(藤原竜也)はデリヘルのドライバーをしているが、実は元直木賞作家。ある日津田は行きつけのカフェで幸地秀吉(風間俊介)という水商売の男性と出会う。その男性は妻と幼い娘と一緒に失踪してしまう。
一方、津田の行きつけの古書店の店主、房州老人(ミッキー・カーチス)は死に際して津田にスーツケースを遺す。その中には3000万円の現金が入っていた。どうやらその紙幣は偽札らしいのだ。そうこうするうちに街の裏社会を牛耳る黒幕、倉田健次郎(豊川悦司)の存在が津田に迫るのだが・・
このようにあらすじを書こうとしてもいまいち上手く書けない。凝った構成の作品なのだ。実は津田は東京の高円寺のバーでバーテンダーとして働きながら執筆活動をしている。そして編集者の鳥飼なほみ(土屋太鳳)には原稿を小出しに見せている。
その小説とは、津田が主人公として実名で登場するのだが、彼の周辺で起こる不可思議な出来事を、津田自身が見聞した事実をベースとしながら、そこに津田が脚色や推測や想像や創作を加え、自分以外はすべて仮名にして、「過去に実際にあった事実」ではなく「過去にあり得た事実」を小説として描いていくというものなのだ。
話は高円寺でバーテンダーをする津田と、富山でデリヘルドライバーをする津田のダブルプロットで進行する。
原作小説よりは内容はかなり簡略化されているようだが、物語の終盤においては、あちこちに張り巡らされた謎が徐々に解き明かされていく。タイトルの「鳩」というのは偽札のことなのだが、この偽札がいかなるもので、どのようにして狭い富山の街で流通したのかを見せるプロセスはなかなか面白かった。
観ているうちに、どこまでがフィクションでどこまでが現実なのかよくわからなくなってくる時があるが、まさにそれこそが作り手側の狙いでもある。