オススメ新作(※ネタバレなし)
本作、冒頭から度肝を抜かれます。
主人公の部屋の様子をバックに何かの音が聞こえます。なんの音だろうと耳を澄まして聴いていると、なんと自慰行為の音。しかもその行為者は270kgの巨漢───。
このオープニングにやられまして、この映画の沼にハマってしまいました。
『The Whale』
[邦題:ザ・ホエール]
(2023)
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■全体評
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冒頭からスクリーンに否応なしに釘付けにさせられる作品がありますが(『愚行録』など)、本作もその一つでした。
本作の筋は、ブレンダン・フレイザー演じる270kgの男、チャーリーの一週間を追う、というもの。
基本彼がずっと画面に映ってはいるものの、体躯故に動きは緩慢で映画的な画としての動きは皆無。
それでも彼から一度も観客の興味が離れないのは、映画の仕掛け故かもしれません。
冒頭の自慰行為のあと本人は一度その自らの良くない健康状態故に死にかけます。
一命はとりとめるものの、もう観客は彼から目が離せません。
何をするにももしかしたら次の瞬間発作で死ぬのではないか?と気が気ではないのです。
(見事にダーレン・アロノフスキー監督の手のひらで踊らされてる感)
そんなチャーリーは本来ユーモアもあり、チャーミングなんだろうということが彼を親切で見ている近所のリズ(実はチャーリーとは近親者という関係値もある)との会話で見え隠れします。
物語は彼の一週間の中で、娘、日々チャーリー宅のフードデリバリーの配達担当(おそらくそこが担当地区で同じ人がよく配達にくる)、宣教師、元妻───彼らとの交流を通したヒューマンドラマの側面はありつつ、「泣けるイイ話」にはしてないところがダーレン印のクセ強映画です。
全編を通して、人間同士の交わりは儚いものであり、優しさですらあくまでエゴのぶつけ合いという側面から逃れられないという価値観を感じました。
ただ、それでもひとつの映画として仕上がってるのは、そんな彼のエゴをこれでもかと最後まで描ききってるからかもしれません。
物語全体や登場人物に起こることは不穏で不条理で世知辛さもありつつ、そこはかとなくホラーやサスペンスっぽい瞬間もありつつ、それでも登場人物達はどこか嫌いなれない・愛着すら湧いてしまいます。
それはアロノフスキー監督が、徹底して肉体的な苦しさをこれでもかと見せつける人でありながら、どこかで人間を信じる温かみみたいなものが滲み出ているからかもしれません。
アロノフスキー監督の作品をここまで好きになったの初めてかもです。
あと、これだけ厚みのある作品をワンシチュエーションで実現しているのも凄いですね。
あとはなんといってもブレンダン・フレイザーね。
『ハムナプトラ』観て育った世代としては、なんとも感慨深いキャスティング。
彼は本作でアカデミー賞主演男優賞を受賞。
改めておめでとうございます!
『ハムナプトラ』シリーズで日本でも馴染み深い彼。
当時はちょいマッチョ系イケメンの王道キャリアっぽい感じのイメージでしたが、特殊メイク込みとはいえこの変身ぶり。
すごい役者魂ですよねーーー。
その他の主要キャラクターのために、サマンサ・モートンやタイ・シンプキンス、ホン・チャウなど様々な経歴や作品出演歴を持つ俳優が集まったごった煮感も、本作の魅力でした。
キャラクター数が少ない分、ひとりひとりが濃密。
いやー、濃厚な映画でした。
万人ウケとは違うところで、非常にオススメな一作です。
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■『ザ・ホエール』あらすじ
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恋人アランを亡くしたショックから、現実逃避するように過食を繰り返してきたチャーリー(ブレンダン・フレイザー)は、大学のオンライン講座で生計を立てている40代の教師。
歩行器なしでは移動もままならないチャーリーは頑なに入院を拒み、アランの妹で唯一の親友でもある看護師リズ(ホン・チャウ)に頼っている。
そんなある日、病状の悪化で自らの余命が幾ばくもないことを悟ったチャーリーは、離婚して以来長らく音信不通だった17歳の娘エリー(セイディー・シンク)との関係を修復しようと決意する。
ところが家にやってきたエリーは、学校生活と家庭で多くのトラブルを抱え、心が荒みきっていた……。
(映画『ザ・ホエール』公式サイトより)
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■予告編
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