【イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密】 | シネフィル倶楽部

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洋邦ジャンル問わず最新作から過去の名作まで色んな作品ついて、ライトな感想や様々な解釈・評論を掲載orつらつらと私「どい」こと井戸陽介の感想を書く場にしたいと思います!観ようと思ってる作品、観たい過去の作品を探す時とかの参考書みたいに活用してもらえればと♪

NEWオススメ新作♪(※ネタバレはありません。)

Based on a true story─────。

英国政府が50年間隠し続けた衝撃の真実。

一人の天才の悲哀に溢れた人生を切なくドラマティックに、そして映画的な興奮と共に描き出した一本。

観客はこの映画を観る事で、タイトルである『イミテーションゲーム』に参加させられ、物語の終わりにジャッジできるかが試されています。

主人公は戦争の英雄か犯罪者か────?

個人的には2015年の公開作品の中で、『セッション』と並んで───いや、それ以上にオススメしたい作品です。

『The Imitation Game』
[邦題:イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密]
(2015)

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戦争映画、恋愛映画、サスペンス映画、そしてヒューマンドラマなど様々なジャンルにカテゴライズできる本作。

ジュラシック・パーク』などのように一つの映画で2度オイシイ映画などは特に好みな自分ですが、本作は2度どころではなく3度も4度もオイシイ。

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謎解き、チーム内の人間ドラマ、恋愛模様、戦争映画、伝記映画などなど、非常に多面的な映画に仕上がっております。

エニグマを解明していくのが主軸になっておりその解読の過程自体も面白いのに、映画後半で明かされる歴史の真相があまりにも衝撃的で切なく苦しい。

ホントね、、、オチを知ってる方と話したいんですが…これ実話ってすごすぎません?!?!

冒頭で書いた通り、この物語の真実は英国政府が50年間隠し続けたものなんですが、観終わった後「納得」してしまいます。というか納得せざるを得ない。

もし自分が彼ら主人公の立場だったら、その真実の重さからなにがなんでも逃げ出したいと思います。

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もう一つ。

この映画で描かれている大きな物語として、主人公アラン・チューリングが成し遂げた偉業があります。

先述の通り伝記映画としての側面もあるんですが、アラン・チューリングはスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなどの偉人からコンピューターの祖と崇められているんです。

今日皆が使う「パソコン」。

今ではもう当たり前すぎて無かった時の事などとうに思い出せなくなってる程ですが、その元を発明したのが本作の主人公アラン・チューリングなんです。

もちろん「パソコン」をどう定義するかによって変わりますが、この場合いわゆる皆が想像するPCではなく、コンピューター(電子計算機)を指します。

自動で計算をしてくれる機械、それが全ての始まりでありそれを実用化したものが今で言う一般的なパソコンになります。
(ちなみに一般向けに実用化した発明がAppleやWindowsであり、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツなどの偉人によるものとなります)

どうやらコンピューターの起源は諸説あるようですが、間違いないのが第二次世界大戦前後で発明されたという事。
そしてイギリス、ドイツ、アメリカなど各国でその「はじまり」を発明した人物がいたということ。

その一人であり最重要人物がこのイギリス人のアラン・チューリングなんです。

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アラン・チューリング(本人)


本作はその過程を描いているんですが、決して難解な話でもなくカタイ話でもありません。

そのコンピューターを作る目的が暗号解読というスリリングなものであり、その先に戦争終結という大河的な要素もありつつ、主人公アラン・チューリングの暗号解読へのモチベーションには切ないドラマが隠されているからです。

ではでは、前置きが長くなりましたが本作のあらすじをご紹介します!

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■『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』あらすじ――――――――――――――

1951年、イギリス。
一人の数学教授の自宅に何者かが侵入したとして、刑事が現場に駆けつける。

しかし肝心の被害者である当人アラン・チューリング教授は、被害を認めようとせず早く刑事を追い返したいような素振りを見せる。

その様子を不審に思った刑事はアラン・チューリングを調べ始めるのだが…。

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時は遡り、第2次世界大戦下の1939年イギリス。

若き天才数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)はドイツ軍の暗号エニグマを解読するチームの一員となる。

高慢で不器用な彼は暗号解読をゲーム感覚で捉え、仲間から孤立して作業に没頭していたが、やがて理解者が現れその目的は人命を救うことに変化していく。

いつしか一丸となったチームは、思わぬきっかけでエニグマを解き明かすが…。

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■暗号解読サスペンスとしての側面
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映画はイギリス───ひいては連合軍の最高機密プロジェクト「エニグマ解読」のプロジェクトの発足と共に幕を開けます。

「エニグマ」────第二次世界大戦に関する知識が乏しい人でも名前を聞いたことがあるくらい有名な代物ではないでしょうか。

ドイツ軍が開発した暗号機のことですね。

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全ての通信や連絡が無線を通して行われている訳ですが、その無線信号を暗号化する機械のことなんです。

そしてその暗号を解くカギのパターンはなんと─────

159000000000000000000通り。

10人が1分間で1つの設定を試し、1日24時間週7日休みなく働き続けたとして解読までにかかる時間は─────驚くなかれ、2000万年!

しかも暗号は毎日 0時にリセットされてしまう。

そんな絶望的に不利な「ゲーム」に挑むのが、天才数学者であるアラン・チューリングやチェスの王者、言語学者、暗号解読に長けた者など、様々な分野の第一人者からなるチーム。

そのプロジェクトメンバー選出のための面接で、主人公アラン・チューリングの人となりが少しわかるんですが、無駄なコミュニケーションがない、冗談が通じないetc. 頭が良いが故にちょっと周囲と噛み合わない。

このプロジェクトが一筋縄では行かない事がよく分かり、そこにサスペンスが生まれています。

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■ヒューマンドラマ ~マイノリティとマジョリティ~
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女性と男性、同性愛と異性愛、権力と愛、様々な立場やその時代にあった非情な差別などが描かれており、このパートは非常に切なくて切なくて・・・胸を締め付けられ、観ている者の涙を誘います。

主人公は天才故か、奇人・変人・風変わり・浮いているといった印象を与える人物だったようです。

周囲とうまくコミュニケーションが取れず、馴染めない部分もあるのですが、キーラ・ナイトレイ演じるジョーンというパートナーの手を借りてチームの一員となる、友人を作る、集団行動を達成していく姿やその過程は胸が熱くなります。

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そして、、、彼が抱える「ある秘密」。
その秘密故に彼が映画の最後に流す涙は、ドラマとしての本作の魅力がすべて詰まっています。

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■戦争映画
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このパートもあまりに衝撃的な事実なので、詳しくは語りません。
戦争というべきか、結局はそれを起こしてしまう政治というべきか、その深い闇に主人公が蝕まれていく様は見ていてツラいものがあります。

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が、それは同時にこの映画が大きく人の感情に訴えかけるものであるという見方もできる訳です。

また、エニグマ解読プロジェクトの発足から、戦場の描写を合間合間に挟んでいるんですが、それによりこれが戦争映画であることやチームが追い込まれていく様子、また戦況が刻々と悪化している様がよく分かるんです。

観客がきちんと物語についてこられるように、とても親切に出来ており娯楽性と芸術性を兼ね備えた演出で、非常に映画の醍醐味を味わえる仕上がりとなっております。

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■ベネディクト・カンバーバッチ
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なんなんすかね、この人の魅力ったらもう。

最初顔見た時、「変な顔っ!!」って思ったのを覚えてます。
でも今じゃカッコよく見えて仕方ない。

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ちなみに彼、素顔もなかなかチャーミング。
とある映画祭での一幕。

♪♪ShortsHD presents: Benedict Cumberbatch Photobombs U2


ゴールデングローブ賞会場でフォトボムをやってのけた彼w
こういう気さくな感じも好感持てますよね。

一方、役者としてはナイーブな役、悪役、変人・奇人・天才役、人外の役。

幅広い演技のできる役者さんですねぇ。

加えて魅力的なのがその声。
『ホビット』シリーズのスマウグ(ドラゴン)をモーションキャプチャーで演じたのは彼なんですが、この声の迫力や深みたるや!

あまりホビットシリーズはハマらなかった自分ですが、この声の演技だけで観た甲斐がありました。

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♪♪『ホビット 竜に奪われし王国』


声の説得力として上記のドラゴンや『スター・トレッ ク/イントゥ・ダークネス』でのメインの悪役・カーンもとても魅力的でした。
(カーンの良さはそちらの記事で紹介しているので是非♪)

あとはカンバーバッチを語る上で絶対に外せないのが、本国イギリスではもちろんの事、全世界で話題となっているBBC制作ドラマ『SHERLOCK』。

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新聞ではなく≪ネット≫
電報ではなく≪メール≫
馬車ではなく≪タクシー≫
手記ではなく≪ブログ≫

あの名探偵シャーロック・ホームズの物語を全て現代に置き換え、素晴らしいクオリティのエンタメドラマに仕上げた作品です。

カンバーバッチの出世作と言っていい作品ですね。

この時もいわゆる変人を演じており、本作の主人公も天才故に周りからは浮いているんですがクセになる魅力で観客を惹きつけてやみません。

ドラマ「SHERLOCK」は原作と同様の時代に舞台を移したスペシャル版が、本国で放送される事が決定しており、つい先日、日本でも2016年2月に劇場での公開が決定しました!
(ドラマを映画館でかけるってなかなかすごい事です・・・その人気ぶりが伺えますね)

個人的に劇場で観れる日を心待ちにしています(^ ^)

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■その他のキャスト
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現在、世界で大ヒットを飛ばしている『007 スペクター』。

ダニエル・クレイグ版ボンドシリーズで、Mの側近タナー役で出演しているのが彼。

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ロリー・キニア


彼が戦争終結後の1951年パートで刑事を演じており、チューリングの告白を聞くという構造の映画。
観客と同じ視点に立って、彼の半生を知ることとなります。

この時代にしては寛容なキャラクターなのでしょう。

そうして観客のそばに寄り添う役回りに対して非常に説得力ある役者さん。つまり良い人感が強い役者さんです(^ ^)

他にも、ロバート・ダウニーJr.がホームズを演じたガイ・リッチー監督版の映画『シャーロック・ホームズ、』でブラック・ウッド卿を演じたマーク・ストロングが強面のMI6メンバーを演じています。

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こちらは007で描かれている様なMI6とは異なり愛嬌もなく、リアルなスパイ機間として描いており、彼が演じるミンギスは非常に冷徹なキャラクターですね。

その他にも『パイレーツ・オブ・カリビアン』で一躍世界のスターの仲間入りを果たしたキーラ・ナイトレイも、この時代では先を行く感性の持ち主だったであろう女性を好演しています。

素晴らしい脚本と素晴らしい演技が出会うとこういう傑作が誕生するんだなぁ、とつくづく痛感した作品です。

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■あとがき
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本作の監督はなんとあのミステリーの金字塔『そして誰もいなくなった』(アガサ・クリスティ作)の実写化に挑むらしく、非常に楽しみにしています!

衝撃的とか秘密とか散々いろんな言葉を使って書いてきましたが、正直なんの前情報もなしに観て欲しいんです、この作品。

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『時として誰も想像しないような人物が、想像できない偉業を成し遂げる』

本作中で何度か登場するセリフです。

その誰も想像しない様な人物を描いた本作。
ずしんと腹の奥底に響く物語です。

ワタクシ無神論者ですが、この物語を受けて主人公アラン・チューリングが英雄か戦争犯罪者か判断できるのは────神だけかもしれないなぁと個人的には思っています。

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■予告編
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