脳内麻薬の続きを書きます。

 

前回の記事はこちらです。

 

 

初夜を迎えたという既成事実ができたことで、アンヌはもう後戻りできなかった。

確かにフランス王妃になることを決意したが、やはり誓いを破ってしまったわだかまりが残り、アンヌは告解師に何度も依頼していた。

 

告解というのは罪を告白すれば神が許すというシステムですが、インチキ自己肯定になります。カトリック教徒は教会法989条で「分別のつく年齢に達したすべての信者は、重大な罪を少なくとも1年に1回忠実に告白する義務を有する」ということが定められており、この時代には告解をする慣習はありました。

 

「神父様、私は罪を犯しました。私は誓いを破り、フランス王妃となりました。本当にこれでよろしいのでしょうかアセアセ

 

神父のアドバイスはぶっきらぼうなものだった。

 

「娘よ。マクシミリアンがそなたを支え守らなかったことで既に向こうが誓いを破っている。自分の良心とフランスのために正しいことをしなさい。」

 

この神父は一体フランス王家からいくら袖の下をつかませられたのだろう。この時代の聖職者はほとんどが腐敗していた。

 

「神父様に告解をして一時的に気が楽になった気はするけれど、この胸のつかえは何なのだろう…

「アンヌ~、もうマクシミリアンなんか庇わなくていいから。君は真面目すぎ!神も許した!君の本当の夫は俺だから、ね?ラブラブ

 

一体誰のせいでこんなことになったんだか…

 

アンヌは、家庭教師のディナン夫人に内密に相談していた。

 

「私の役目…できる限り世継ぎを産み、次男三男にブルターニュを継承させるしかないわ。条約には省略されちゃったけど。」

「陛下はいかがでした?」

「シャルルは私を好いてくれているわ。あなたの言う通り、シャルルは優しいけれど、自分に自信がないわね、マダム」

「王妃様、あなたにお似合いですわね。」

「そうね…彼に欠けているものを私は持っているから…私は彼の力になれると思う。彼を成長させ、ブルターニュ独立にもっていけるよう改心させたいわ。」

「もうすぐあなた様にも、自信を植え付ける王子や王女ができます。あなたはそのためにいい仕事をするでしょう。」ディナン夫人は頷いた。

「その前に、夫に自信をつけさせ、王としてあるべき姿を取り戻させなくてはね。国王が自らの決断を信頼し、民衆の支持を得られるよう信頼を高めることも必要だから。」

「いつ始めるのですか、マイレディ?」

「既に始めているわよ。赤ちゃんが生まれ、私が王太子の世話で忙しくなるまでは。」

「そのことですが…」

ディナン夫人は、まるで王妃が言い間違えたかのようにためらいがちになった。

 

「それがどうしたの?自然なことでしょう?王妃は主君のことに集中し、赤ん坊が生まれたらそれに集中するものでしょう?」

一年後、自分の腕の中に小さな王太子がいて、一緒にお風呂に入ることを想像すると、子育てすることの楽しみも湧いてくるアンヌであった。

「女性がそうするのは自然なことですが、場合によっては間違いです。」

「間違い?どうして?」

「必要な自信を全て持っている大人の男性がいます。そのような男性の場合は、妻が常に気を配る必要はありませんが…。」

年配の女性は続けた。

 

「私はシャルルをそういう男性に育てようと思っているの。」

「あなたのご主人である国王は、今はまだ成長しきっていませんし、自信もありません。その時が来ても、主君から王子や王女に目を向けないことをお勧めします。」

とディナン夫人は忠告した。

 

「でも、私は赤ん坊の世話で忙しくなるのに!」

「王妃様、今お話になった男性は、あなたの乳飲み子の中で一番になるのです。このことをよく覚えておいてください。」

「でも、シャルルを自立できるように教えてあげます!」

「いいえ、お許しください。そのようなことを教えられるのは幼少期の頃だけです。あなたがそばにいれば、彼は強く立ち上がるでしょう……しかし、疲れたり弱ったりしたときには、あなたがそばにいてあげることが必要なのです」

「でも!」

「赤ちゃんが生まれた後も、彼はあなたを必要とし続けることを忘れないでください。両親から愛され、幼少期に愛と支えに包まれた他の男性以上に。」

「どうしてそんなことを知っているの、マダム?」

「私はかつて結婚していました。」

「ラヴァル伯と?」

「ええ。5年前に亡くなりましたが。彼は自分の両親からあまり愛されていない人でした。彼は優しかった。でも、私が彼を必要とする以上に、彼は私を必要としていました。あなたの家庭教師として、お父様から与えられた名誉な仕事を私が始めた途端、彼は……。王があなたの言うような人なら、できるだけ近くにいることです。」

「努力します、マダム。もし義務や事情で離れなければならなくなったら?」

「できるだけ早く再会してください。強い女性がそばにいないと王はダメになってしまうのです。それが彼のパターンで、これは王の父や姉が決めたことです。あなたが彼と一緒にいるのなら良いですが、もしそばにいないと他の女性と寝てしまうと思います。王は女性からの承認を求めています。それを察知し、彼とのひとときを思い出にしようとする女狐たちが寄ってくるでしょう。どんなに容姿が優れていなくても彼が王なのだということをお忘れなく。王の称号は魅力的ですから…。」

「そんなことは絶対に許さないわ!プンプン

アンヌの声は威厳に満ちていた。

「あなた様がそれを防ぐ方法は一つしかありません。」

ディナン夫人は声を落とした。彼女は目を細めた。

「わかったわ。」

アンヌはレンヌから嫁入り道具に持ってきた二つのベッドを思い出し考えを巡らせた。

「もし王が一人で過ごさない夜があっても、あまり厳しく責めないでください。」

「そうね…。私にできるかしら…

 

一方、結婚式の翌日、シャルルは改めて婚約者であるオーストリアのマルグリットに説明するのが礼儀だと考えた。シャルルは、彼女が「小さな宮廷」を開いていたアンボワーズに赴き丁重に、「私は他の女性と結婚したため、君とは別れる」と正式に婚約破棄を告げたのだった。

この知らせを予期していたにもかかわらず、不幸な少女は涙を流し、シャルル自身が目に涙を浮かべたほど、彼女の顔には大きな悲しみが表れていた。

 

「結局婚約とはそういうものなのですね」とマルグリットは言った。

 

婚約…所詮この時代では正式に結婚するまでの仮約束である。結婚は王家の同盟にすぎない。結婚式を挙げる前までは婚約破棄などざらであった。それでも、強引に花嫁を略奪するために婚約者を離縁した王族はシャルル8世くらいだが。

 

若い国王は、非常に複雑な思いで国家の存亡の危機と政治的な理由だから仕方がないと説明した。

 

「俺も悲しいよ

「少なくとも…今起きていることが私のせいだと言われなければいいのですが…

「マルグリット、ごめんな

 

二人は手を取り合い、頬を寄せ合って泣いた。

 

傷ついたマルグリットは一刻も早く父のもとに帰りたいと頼んだ。

シャルル8世は頭を下げた。

 

「あ…いや、当分の間、君はここにいるべきだ

『どういうこと?…この王は一体何がしたいのだろう。私を父の元へ帰してダッシュ

 

6年間、フランスの「小さな王妃」として国民から慕われてきたこの女性が、今や少女に過ぎず、悲しみに打ちひしがれた囚われの身となってしまったのだ......。1493年6月まで帰されることはなかった。マルグリットの持参金、ブルゴーニュ、アルトワ、シャロレーどれもこれもフランスにとって手放したくないものだった。シャルルはフランス国内で貴族と結婚させようとすら考えていたのだ

 

「だって、ここでオーストリアに帰したらマクシミリアンがブチ切れるし

 

帰しても帰さなくてもどちらでもブチ切れるし、全面対決は避けられないでしょう。

 

案の定、マクシミリアンはシャルルとアンヌの結婚と娘の処遇を知ったとき、顔を真っ赤にして怒り狂った。マクシミリアンは、シャルル8世の略奪婚により最大の屈辱を受けたのだ。

 

 「そんな馬鹿な話があるかぁぁぁ!!!ムカムカ

 

この知らせを聞いたのは対しプールヘムからではない。意外にも銀行家ヤコブ・フッガーを通じてだった。

 

 

フッガー家は、ヨーロッパ中の主要都市に商館を置くと同時に、有能なスパイたちを四方にばらまいていた。彼らからもたらされた情報のうち、マクシミリアンに役立つものがあればヤコブは直ちに伝えたのである。そして、後日レンヌから引きあげてきたプールヘムから改めて詳細を聞いた。

 

 

マルグリットと婚約しているはずのシャルルがアンヌと結婚するなどまずは不可能なことだった。ただし、その不可能を可能にできてしまう人物がこの世にたった一人だけいた。それは神の代理人、

 

ローマ教皇である。

 

「シャルル、結婚の件はもう手を打っておいた。教皇に送金したわ!」

「ありがとうございます

 

フランス側は予め、教皇に何万ドゥカーテンという大金を握らせ、1492年2月15日からの交渉において特別措置として、マルグリットとの婚約破棄とマクシミリアンとの代理結婚を遡って無効をさせることを認めさせることに成功したのだ。

 

「教皇聖下、いかがです?

 

 

教皇インノケンティウス8世は大金に目が眩み承認してしまった。

魔女狩り推進派で異端審問に積極的なこの教皇の弱点は金だった。

 

『やはり狙い通り

『教皇も所詮は人の子。所詮、崇拝しているのは神より金なんだな~、へへっ』

 

マクシミリアンはすぐに、評議会を招集し、ランジェで祝われた結婚は不正なものであり、さらにフランス王はアンヌ女公を無理矢理誘拐し、強姦したのだと厳粛に宣言した。それで生まれた子供は非嫡出子だと主張した。

拉致がなかったことを確認するため、レンヌから6人の市会議員が来ていることを告げられたが、マクシミリアンは譲らず、自分がアンヌの配偶者であると主張し続けた。ローマ教皇庁に訴えに出たのだ。

 

「ご存じの通り、私はアンヌ・ド・ブルターニュと結婚しています。私が本当の夫です!シャルル8世はただの花嫁泥棒姦通者です!!!炎ムカムカ

 

シャルルを悪魔めと罵り、この三つの許されざる離別と結婚を認めた教皇インノケンティウス8世を詐欺師だと罵った。また、教皇の裏に枢機卿ロドリゴ・ボルジア(後の教皇アレクサンデル6世)の関与も疑い恨んだ。

 

実は更に教皇インノケンティウス8世の背後に枢機卿ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ(後の教皇ユリウス2世)が暗躍していた。

 

 

この人物にもこれから先苦しめられることになるとは全く知る由もないマクシミリアンであった。

 

マクシミリアンの発言がフランス宮廷の人々を大いに悩ませたのは間違いないが、この前代未聞の略奪婚を知らされたヨーロッパ諸国はドン引きした。

 

 

フランス王がブルターニュを自分の領地とすることを非常に冷ややかに見ていたヨーロッパの君主たちにとって、シャルル8世は興味深い存在だった。

 

各国の反応は次のようなものだった。以下、フィレンツェ共和国、アラゴン王国、イングランドである。

 

 

マクシミリアンの抗議は、苦悩するすべての君主に希望を与えた。

 

しかしフランス王は、

 

「責任は全てドイツ王(ローマ王)にある。本人がブルターニュに来ないことが既に誓いを破っている!そもそもフリードリヒ帝でさえ息子の行為を認めていないし、アンヌ自身、ドイツ王とは正式に結婚していないと言っているよ~ニヤニヤ」と反論した。

 

老獪なローマ教皇インノケンティウス8世は我関せずの態度を貫いた。

 

もし、ローマ教皇としての職務を全うするのであればシャルル8世を破門し、聖務停止令を出すくらいのことをしないといけません。

遡ること12世紀。時の教皇インノケンティウス3世のことを持ち出すのも難ですけど、フランス王フィリップ2世が不当に王妃を離婚させようとしたのを認めず破門と聖務停止命令を下しました。しかし、今回は教皇を買収したのでお咎めなしどころか事実をねじ曲げましたね。

この略奪婚事件の犯人はフランス+ローマ教皇だと思います。

 

マクシミリアンと共通の大義名分を得た諸外国は、人妻をさりげなく誘拐する卑劣なフランス国王に宣戦布告することを決めた。イングランドがその先頭に立った。

 

「姉上!もう私は親政することになるので、引退願います。あなたも母親になったばかりなのだから。ムーランの地を差し上げますから、今後はブルボン公爵夫人としてお過ごしください。」

 

アンヌ・ド・ボージューは1491年5月10日にに娘シュザンヌ・ド・ブルボンを出産しています。

 

『でかした!シャルル。ついにあの女が引退する時が来たか!』

 

「私が引退…覚悟はしてたけど、ついにこの時が来たのね。でも、イングランドが上陸してきたわよ。シャルル、今はちょっと分が悪いわ。あなたに打開策はあるの?」

!「えっ!なんだって!」

「お、思いつかないので最後の策をお授け下さいでも、これで本当に最後です。」

 

アンヌ・ド・ボージューには、この対フランス包囲網を崩壊させるための奇策があった。この女性は本当に悪知恵が働く女性であった。

 

「了解。まぁ、任せておきなさい真顔

 

これが摂政最後の仕事になる。

 

続きます。

 

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