今日、会社で同僚が「よかったら」って、ひとつ梨をくれた。
その梨を手に取った瞬間、ふと懐かしい気持ちになって、家に帰ってからしばらく眺めていた。そういえば、子供の頃はこの果物が大好きだった。秋になると、冷蔵庫で冷やしてある梨を見つけては、こっそり食べていたっけ。
でも、気づけば大人になってから、梨を買うことはほとんどなくなった。嫌いになったわけじゃないし、体に悪いわけでもない。ただ、毎日に追われて、好きだったものを「忘れてしまっていた」だけなんだ。
いつからだろう、自分が何を好きだったかを、ちゃんと覚えていられなくなったのは。
大人の鎧を着て、周りに合わせて、空気を読んで、一生懸命生きているうちに、子供の頃の自分が大好きだった小さな宝物を、いつの間にかどこかに置いてきてしまったんだと思う。
ナイフを入れて、皮をむいて、ひと口かじってみた。
じゅわっと広がる甘い果汁。あぁ、そうだ、こういう味だった。なんだか、とても懐かしい。
それと同時に、心の中の小さな私が、少しだけ顔を出した気がした。
「ねえ、ちゃんと覚えてた? 私が好きだったものは、こんなに甘くて、みずみずしいものだったんだよ」
大人になるのは、案外、自分を失っていくことなのかもしれない。でも、こうやって同僚がくれたひとつの梨で、昔の私とつながれた気がする。
今日の夜は、この梨を食べながら、ちゃんと小さな私にも「ごめんね、忘れちゃってて。でも、美味しいね。また買うからね」って話しかけてみようと思う。🍐
