夜8時に店を開けて直ぐ「店は営業してますか?」の電話があった。「ハイ、してますよ」「それじゃ、後程行きます」とのやり取り。
そして30分後に電話の主がカップルで来店したが、見慣れないような顔だった男性客が「マスター、覚えてますか?」と問いかけた。
私は彼の顔を見ながら思案を巡らせて「あ、T君と違うか。確か下の名前は平和の和と正義の義で和義君」と答えた。
彼と同伴の女性は「スゴイ。覚えていてくれて嬉しい」と言い、居合わせたお客のOさんも驚いた。
客T「来てたのは40年も前やのに、よう覚えてましたね」
私 「直ぐには分からんかったけど、よう見ると僅かに面影があったわ」
客O「スゴイなア、40年前のお客さんの氏名をよう覚えてたなあ」
私 「なんで覚えてるか、分かるか」
客O「さあ、想像つかんわ」
私 「俺とこ、お客さんが少ないからや」
客O「いくらなんでも40年間でお客さんが数十人て事はないやん」
私 「しやけど来年やったら思い出されへんわ」
客O「なんで?」
私 「俺の記憶の賞味期限が40年やから」
客O「ホンマかいな」
T嫁「40年前と言えば、あなたは高校生でしょ」
客T「バイト先の先輩に連れてきてもらってから来るようになってん」
私 「T君、眼鏡をかけてるけど目が悪なったんか?」
客T「これ、老眼です」
私 「あの時は童顔やったけど今は老眼か。ドウガンとロウガン、どっちも似たもんやなあ」
客O「いやいや、ぜんぜん違う」
私 「それにしても40年間のブランク、どないしてたん?」
客T「高校卒業後、仕事で静岡に行って以来ずっとそこに住んでたから」
私 「それで今日は何で?」
客T「今回は母の葬式で帰省してん」
私 「へえ、お母さんが亡くなったの?それはご愁傷さまです」
T嫁「あなた、ここに来てよかったね。お母さんが導いてくれたのね」
客T「来月の四十九日法要の時に帰省するのでまた来ような」
T嫁「うん、そうしようね」
私 「お母さんに感謝やわ」
因みに私は年賀状を出す時にはお客さんの顔を思い出しながら宛て名を書いていた。彼には年賀状を出したのは2、3年間だったがその残像が記憶として残っていた。
※謎かけ:記憶力とかけて、渡辺謙の娘の好感度と解く。どちらも(暗記が良い・杏、気が良い)でしょう
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