『私たちのブルース』に耽っていたので久しぶりの映画になりますが、”100選”とかチョ・ソンギュ監督とか途中のままの追っかけもありながらずっと気になっていた作品を…傑作「私の少女(原題:トヒよ)」の女流監督チョン・ジュリが再びペ・ドゥナと組んだ社会派ドラマの傑作…「あしたの少女(原題:次のトヒ)」

 

ワンジュ(完州:チョンジュ(全州:韓国南西部)の隣接郡)、初冬。地下のレンタルスタジオではソヒがスマホで撮影しながら一人ダンスの練習に励んでいる。かなり上手いが、同じターンでいつも足がもつれてしまう。練習を終えたソヒに友人コ・ジュニが駆け寄ってくる。最近はストリーム配信に凝っていて、ソヒと焼肉に行ってもその様子を生配信している。その様子を馬鹿にする酔客がいるが、ソヒは我慢できずに連中に食って掛かり追い出してしまう。高校に登校すると担任教師が良い実習先が見つかったと喜んでいる。ワンジュ(完州)生命科学高校は職業高校で卒業が近づくと就職候補先企業にインターンとして働きに行くのだ。会社は”ヒューマン&ネット”といい大手通信会社の下請けコールセンターをやっているらしい。そしていよいよ初出勤の日が来る。人当たりの良いイ・ジュノというチーム長が率いる2~30人ほどの若い女性が電話を取る第3チームに配属され、コールセンター業務が始まる。ネットや携帯の解約を受け付けるセンターだが、実態は、その解約申し出をキャンペーンなどで阻止するのがメインで”解約阻止率”がセンターやオペレーターの成績、ひいては彼女たちの成果給に直結するらしい。壁には全国に5か所あるセンターやここのオペレーターたちの成績が所狭しと貼りだされ戦場の様相だ。そして実際に電話を取り始めると暴言やセクハラの客も多い。ある日暴言を吐く客に困る先輩ジウォンから電話を引き継いだいつも我慢強いイ・チーム長が耐え切れずキれてしまう。そのことで本社から幹部がやってきてチームに凄まじい叱責を浴びせかける。そして初雪が積もった朝、会社の駐車場で…

 

チョンジュ(全州)警察刑事オ・ユジンに、「私の少女」に続けて警官役を演じる圧巻の演技派ペ・ドゥナ、ワンジュ(完州)生命科学高等学校3年キム・ソヒに、実質映画デビューで将来性を感じさせる若手キム・シウン、後は殆ど知らないので見知った役者だけ、キム・ソヒの担任に、「野球少女」のコーチ役など渋い脇役ホ・ジョンド、全羅北道教育庁職業高校担当に、怪女優ファン・ジョンミン。

 

どうしても前作「私の少女」から触れねばならないでしょう。女流監督チョン・ジュリが刑事ペ・ドゥナと虐待などに苦しむ天才子役キム・セロンの凄まじい苦悩を描いた作品ですが、その重苦しさと後味がなかなか忘れられない衝撃作だったわけで、今回もペ・ドゥナが同じく左遷された刑事役だと聞き続編かと思った次第です。実際は別の物語であったわけですが、虐待と不法就労が労働搾取に変わっただけでその静かでいてドロドロしたトーンはそのままだといっても良いでしょう。映画の前半は卒業間近の明るい18歳の少女が次第に追い詰められていく姿をスリラー並みの怖さで描いていき、後半はその事件を調べる女刑事が企業や学校の醜悪な実態に絶望していく様子を描くわけですが、その羽二重餅のような重圧感は、他の映画では味わえない独特の閉塞感をもたらします。この前半ソヒ、後半刑事ユジンとほぼ独立した構成にしている辺りも巧いんですが、一方で二人が微かに繋がるシーンも埋め込まれていて、それがまた切なさを倍増させる辺りも、負けたなぁ、と感じさせます。語り口は全体として静かな感じだと思いますが、耐え続ける少女と刑事がキれるシーンがそれぞれ一回ずつ描かれていてそれが物語の臍のように印象的に効いていますし、さらに、薄氷の張る貯水池、裸足のサンダル、引き戸から漏れ込む一条の夕日、といった象徴的な絵作りも見事だと思います。

 

ペ・ドゥナの演技を見るだけで、うわぁ韓国映画を観たぞ、という実感に酔い痴れることも可能かもしれませんが、ともかく「私の少女」同様に引きずる部分が大きい作品なので、映画を観る前後に十分に気力を貯め十分に気力を回復させる時間と余裕が必要な作品だと思います。その辺は気に留めて頂いた方が良いでしょう。

 

楽曲について。ソニが友人ジュニとカラオケががなりたてるのは、イ・スンファン2006年の作品で、後に<SEVENTEEN>スングァンがリバイバル・ヒットさせる「どうして愛はこうなの(어떻게 사랑이 그래요)」。