”YouTubeで観る韓国映画100選”第8弾は、五つ星「風吹く良き日」のイ・ジャンホ監督作…弾圧・検閲のチョン・ドゥファン強権政治へシュールなギャグの連続で反旗を翻す時代の傑作…「馬鹿宣言」

 

足が不自由なトンチルは左足を跳ね上げながらソウルの街を徘徊する。すると近くのビルから映画監督が飛び降りる(注:この監督はイ・ジャンホ自身が演じている)。トンチルは監督に駆け寄り彼の最後の言葉を聞く。そして、監督の腕から腕時計を抜き取り、さらに屋上に上り残された靴、上着、財布を懐に入れる。トンチルが歩道橋の階段に鏡を置いて女性たちのスカートの中を覗いていると、一人の女子大生風の美人が階段を下りてくる。トンチルは一目で彼女に惚れ、その後を尾け回す。食堂や茶店や靴屋や美容室やインベーダーゲームが流行るゲームセンターでの彼女に妄想に膨らませている内に、トンチルの中で悪魔が囁く…彼女を拉致しよう。トンチルはタクシー運転手を丸め込み、クロロホルムを準備する。そして彼女に近づき、タクシーに引きずり込み、薬を嗅がせようとするがもみ合いになり、やがて二人とも気を失ってしまう。こうして、トンチル、女子大生風美人(後に娼婦だと判明する)、タクシー運転手ユットク(後にタクシーは友人から借りていただけと判明する)、三人の奇妙奇天烈な道行が始まるのだ…

 

女子大生風の娼婦ヘヨンに、「膝と膝の間」「恐怖の外人球団」などイ・ジャンホ監督のお気に入り個性派美形イ・ボヒ、自由人トンチョルに、始めは気づきませんでしたが10年後に大傑作「風の丘を越えて」に主演する大名優キム・ミョンゴン、トンチョルに巻き込まれるユットクに、イ・ジャンホ作品常連太目脇役イ・ヒソン、女郎屋ポジュ(抱主≒主人)に、2015年「西部戦線1953」まで活躍する名お母さん女優キム・ジヨン。特別出演では、映画の冒頭ビルから飛び降りる映画監督に、本作の監督イ・ジャンホ自身。

 

物語は、彷徨う三人が出会うソウルの街並み、三人が働くその方面では有名な清凉里(チョンニャンニ:ソウル中心部)の売春町、三人の旅が終わる忠清南道の半島にある高級海岸リゾートのヨンポ(恋浦)海岸、主に三つのパートからなります。特に検閲など当時の映画状況に絶望するイ・ジャンホ監督による即興的演出によるとされるので、これといったストーリーもなく、三人によるシュールで過激なギャクが乱射され続ける、という構造になっています。最初は、殆どサイレント映画と呼べるほど少ない台詞、幼い少年によるたどたどしいナレーション、チャプリン風あるいは道化風大げさなギャグなどに疲れ果て、これで映画と呼べるか、といった感じを受けますが、終盤に差し掛かる頃には、重苦しい社会の底辺で、何としても生き延びてやる、といった切ない反骨精神が感じられてくる、みたいな作りなのかもしれません。ラストシーン、踊り狂う主人公たちの背景にピンボケの国会議事堂を映すのが精いっぱい、といった辺りはかなり切ないでしょう。主演のキム・ミョンゴンは、サングラスをかけ手足を大げさに振り回すと、どう見ても滝藤賢一に見えるわけですが、奇妙な哀愁も共通していると感じます。

 

五つ星「風吹く良き日」やこの後に「膝と膝の間」「恐怖の外人球団」という珍品を撮るイ・ジャンホ監督という人物像がますます不可解に感じるたりもしますが、ギャグ・マシン状態の滝藤賢一を100分観続ける位の精神力が必要なものの、最後には哀愁と反逆心を仄かに香らせる重い時代が産んだシュール・ブラック・コメディの傑作だというのも頷ける気がします。”100選”に選ばれるのも納得の異色作でしょう。

 

楽曲について。序盤トンチョルがヘヨンをストーカーする時に流れる乗りの良い曲は、ローラ・ブラニガン(Laura Branigan)1982年「グロリア(Gloria)」で、聞いたことがあると思いきや1983年「フラッシュダンス」アイススケート大会のBGMでした。中盤トンチョルたちが売春町で働くシーンで流れるのはナム・インス(남인수)1939年「感激時代(감격시대)」。

 

【YouTube】바보선언(1983) / Declaration of Idiot (Baboseon-eon)<한국고전영화 Korean Classic Film>(英・韓字幕付き)