「正直な候補2」に戻って大ファンのキム・ムヨルつながりで…大統領選挙と総選挙に揺れる1992年、巨大再開発に突き進もうとする釜山を舞台に、下っ端政治家の辿る過酷な運命を生々しく描いてポリティカル・アクションの秀作…「対外秘」

 

大統領選挙と総選挙が控える1992年釜山、下っ端政治家チョン・ヘウンは鏡に向かってヘウンデ(海雲台)区国会議員への立候補宣言の練習に余念がない。20年かけてようやく与党民主党の公認予定候補になれたのだ。ヘウンは下町に出かけ、庶民相手に再開発に抵抗しようと演説し、喝采を浴びる。同じ頃のソウル。何としても大統領選挙に勝ちたい与党民主党は、総選挙での釜山の勝利を重視、釜山の陰の実力者クォン・スンテを動かすことにする。クォン氏は釜山勝利の切り札を”ヘウンデ(海雲台)”再開発に定め、財界を動かすと言う。そして再開発に否定的な公認予定候補チョン・ヘウンを切り、代わりに従順な人形を据えると言う。激怒したヘウンはクォン氏に直接抗議に行くが、”歩”は切り捨てられるだけだ、とにべもない。そんな時、高校同級生の市庁再開発担当幹部ムン・ジャンホが金庫に保管される極秘(対外秘)”ヘウンデ(海雲台)開発計画書”をインスタント・カメラで撮影し、金と将来の昇進を条件としてヘウンに渡す。ヘウンは、この極秘資料を餌に、闇金キム・ピルド、建設業チョン・ハンモと手を結び、独立候補として総選挙に挑むこととする。こうして釜山は血と札束が乱れ飛ぶ戦場になるのだ…

 

20年の下積み政治家人生の転換点を迎えるチョン・ヘウンに、イ・ウォンテ監督第一作「大将キム・チャンス」から名優チョ・ジヌン、釜山の政財界を闇で動かすフィクサー、クォン・スンテに、顔を見ない日がなさそうに思える売れっ子イ・ソンミン、釜山の闇金ボス、キム・ピルドに、イ・ウォンテ監督第二作「悪人伝」から名優キム・ムヨル、釜山の闇の開発業者チョン・ハンモに、迫力刑事・ヤクザはお手のものウォン・ヒョンジュン、釜山市庁再開発担当幹部ムン・ジャンホに、お馴染みキム・ミンジェ、釜山部長検事アン・ギュファンに、こちらもお馴染みユ・スンモク、”釜山毎日”の正義派記者ソン・ダナに、「未成年」でのクールで深い好演が印象的なパク・セジン、ヘウンの妻サンミに、美形ソン・ヨウン。

 

余談ですが、昨年も釜山を訪れ、壮大な広安大橋、その先に林立する超高級超高層マンション群に息を呑みましたが、それらの影も形もなかったのが僅か30年前というのが信じられない思いです(広安大橋の着工は1995年頃です)。そんなこともあってか、この壮大な再開発のため、乱れ飛ぶ数台のトラック一杯の段ボールで運ばれる札束(5万₩札が出るのにはさらに十数年かかります)、有権者に配られる札入り封筒の束、凄まじい拷問と容赦ない暴力、さらには信じられない規模の選挙不正…勿論きわめて漫画的な誇張もあるとは思いながらも、それを生々しく描く本作は凄まじい迫力で迫ってきます。また映画美術が見事。階段だらけの古い町並み、通りを走る時代遅れの車、小汚い安モーテルや居酒屋の風情、などなど勿論見たことはありませんが、あっという間に30年前の釜山にトリップすることが出来ます。役者がまた良い。チョ・ジヌン、イ・ソンミン、キム・ムヨルは、こういう糞野郎たちがいたに違いない、と盲信させる生々しさですし、個人的には、映画で唯一正義を信じる女性記者を演じるキュートなパク・セジンが見事なアクセントになっていると思います。

 

多くの観客が望むであろう方向に物語が進むわけではありませんし、(恐らく)誇張も過ぎているんだろう、とか思えて五つ星にはしませんが、フォースの暗黒面に堕ちた辛口ポリティカルお伽噺としては、特定の観客を捉えて離さない底力を感じさせます。ただ、気分の良い時とか、幸せな時に観るのは避けた方が良いかもしれません。

 

楽曲について。三人組誕生の大騒ぎで流れるポップな演歌は、チョン・チョル(전철)2012年「海雲台恋歌(해운대연가)」、壮烈な選挙戦で流れるロックな演歌は、チョン・スラ(정수라)1988年「歓喜(환희)」。