ソ・ヨンヒが出てきたので…最近のホラー映画の流行り”事故物件”を邦題に付けてはいますが、観る側の読解力ではちょっと及ばない感じの洋館ホラー…「事故物件 歪んだ家」

 

都会のアパートの夜。夫ヒョンミンが神経症を病む妻ミョンヘに、治療のため郊外に引っ越そう、と説得しているが、ミョンヘが拒み口げんかになる。その様子に幼い次女ジウが起きてくる。ヒョンミンは自分の会社の社長の葬儀に出かけようとするが、ミョンヘに言われ長女ヒウを連れて行く。人気のない葬儀場の駐車場では、ヒウが一人で父親を待っているが、何かに呼ばれるように会場に向かう。廊下を進むと無人の部屋に遺影が並んでいるのが見える。夫婦とヒウと同じ年齢の二人姉妹の四人だ。ヒウがその写真に見入っていると、妻の目が黒く濁り睨み返してくる。ヒウが逃げ出そうとするとそこへ記者の叔父が近づいてくる。振り返ると、あの部屋に並んでいた遺影がない。車に戻ろうとすると一人の男が近づいてくる。”あれを見ただろ。何か助けが必要なら電話しろ”と名刺を渡してくる。除霊札をデザインした名刺には”キム・グジュ”とある…そして引っ越しの日が来る。それは山の麓にポツンと建つ瀟洒だが何処か禍々しい雰囲気の洋館だ。そしてそこが恐怖の舞台だ…

 

母親ミョンヘに、最近ではホラーやダーク・スリラーに欠かせない演技派美形ソ・ヨンヒ、父親ヒョンミンに、気弱な好人物がお得意名脇役キム・ミンジェ、養子の長女ヒウに、「君の誕生日」「カーター」などで驚くほどの演技力を見せる天才子役キム・ボミン、引っ越し先の隣家の女に、「8番目の男」「正直な候補」などでキュートさ満開のチョ・スヒャン、謎の徐霊男に、お馴染みパク・ヒョックォン、長男ドンウに、「奈落のマイホーム」で印象的な二枚目子役オ・ジャフン。

 

有名だと聞く恐怖小説作家チョン・ゴヌの同名長編小説の映画化ですが、”翻訳ミステリー大賞シンジケート”というサイトでの翻訳家藤原友代氏の記事を読む限り、映画化にあたり相当切りつめているようで、本来の恐怖が中途半端になっているのは止むを得ない気がします。せっかく、謎の徐霊師、朽ち果てた地下室、幼い姉妹亡霊、父親の盗作事件、"仮面”、"養子”、”長男の存在”、など刺さりそうな要素が張り巡らされていながら、それぞれが尻切れになっている感じは、当方の読解力不足とも相まって、かなりしんどいなぁ、と思われます。ただ、役者はかなり魅力的です。両親を演じるソ・ヨンヒとキム・ミンジェはある展開から、演じていて面白い役回りでしょうし、何より長女を演じるキム・ボミンが圧巻です。聡明で気丈な役柄がピタリとはまり、何故か姉妹亡霊と気脈を通じ合ったり、ハラハラ逃走アクションなど見事な名演で、彼女がヒロインだといっても良いくらいです。

 

原作を読んでいれば、ひょっとしたら巧みなダイジェストになっているのかもしれませんが、映画単体ではきちんとした恐怖空間が作り上げられているとはいえないでしょう。逆に、謎の徐霊師は…? 長女シアと姉妹亡霊の関係は…? みたいに原作小説を読んでみたくなるような作品で、映画としては残念だと思います。

 

ちなみに、”事故物件”でFilmarksを検索すると12件ほどヒットしますが、筋違いではないにしても、ちょっと芸のない邦題だなぁ、という思いは禁じ得ません。