韓国映画らしいダーク・サスペンスを続けますが…19日間の兄の失踪で一変する家族の恐怖を”スイーパー”並みの超変化球で描いて秀逸…「記憶の夜」

 

二浪21歳のジンソクは車の中で悪夢から目覚める。今日は、両親・兄との四人家族での引っ越しの日だ。目的の家に着くが、その古風な邸宅は、ジンソクには何処かで見たことがあるように感じる。兄ユソクは、数年前の交通事故で少し足を引きずるが、文武両道、有名大出のエリートでジンソクの誇りだ。引越しが始まり、ユソクは”1997年5月”のカレンダーを壁に貼る。部屋の一つは前の住人の荷物が残っていて、覗かないように言われているそうだ。その夜、ジンソクはその部屋からの異様な物音に目覚める。ユソクも起きてくるが、引越しで持病の神経症が高ぶったためだ、と雨の中ジンソクを散歩に誘う。携帯が鳴りユソクが先に家に向かい、ジンソクも遅れてその後を追うが、黒いバンから降りた屈強な男たちがユソクを車に押し込んで走り去ってしまう。二人の刑事が家に張り付き、電話を待つが一向に連絡がない。そして19日後、突然ユソクが無事に帰ってくる。19日間の記憶がないそうだ。そしてそれが、ジンソクの更なる悪夢の始まりだったのだ…

 

二浪の弟ジンソクに、「パイレーツ」五つ星「雨とあなたの物語」など硬軟自在のアラサー演技派カン・ハヌル、文武両道の優秀な兄ユソクに、「正直な候補」「声」などもはや主演俳優と呼ぶべきキム・ムヨル、一家の父親に、「競馬場へ行く道」など1990年代から存在感タップリの重鎮ムン・ソングン、母親に、「赤道の花」など80年代から活躍するナ・ヨンヒ、医師チェ教授に、彼も「シュリ」など世紀をまたがる重厚な演技派ナム・ミョンニョル。

 

Netflixオリジナルとあるので何となく韓国映画らしいダーク・サスペンスとしては期待しにくいなぁ、とか思って見始めた訳ですが、とんだ偏見、観客も140万人近く集めるだけあって、見事な脚本と演技陣によるヘビーな暗黒譚に仕上がっていて、深く反省している次第です。序盤こそそのホラー風或いはSF風の不気味な雰囲気に戸惑いますが、中盤驚くべき転換があってから怒涛のように物語が収斂していく様は、”記憶の迷宮”とでも呼べる圧倒的な映画時空間だと思います。IMF危機の織り込み方など1997年の語り口も、巧い、の一言です。さらに「捜索者」とは違い、名作の主演を張ってきた四人の名優が熱演する四人家族が圧巻です。役者なら一度は演じてみたいと思うだろう、と想像できる凝った人間像を見事に体現しているといって良いでしょう。

 

良く考えると、現実的論理的には、ちょっと無理があるだろう、と左脳は警戒しますが右脳はすっかり騙された、そんな感じを持つ観客は少なくないと思われます。さすがに五つ星というほどの風格には及びませんが、ダーク韓国サスペンス好きにはそれなりに刺さる可能性は十分あるように思います。

 

楽曲について。ジンソクのテーマソングみたいに何度か登場する柔らかいバラードは、イ・ムンセ(이문세)1991年「過去の恋(옛사랑)」、残酷な犯罪現場に流れるスタンダードは、エルビス・プレスリー&マルティナ・マクブライド(Elvis Presley&Martina McBride)のデュエットで有名な「ブルー・クリスマス(Blue Christmas)」をデビッド・ティボー(David Thibault)とキム・ジュウン(김주은)がカバーしています。